その一方で、コロナ禍で倒産抑制に大きな効果をみせた資金繰り支援策は希薄化が鮮明になってきた。春から企業倒産は漸増状態に入り、6月には負債1兆円超の大型倒産も発生した。コロナ支援の出口戦略を睨み、3月に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が公表された。その後も「私的整理の法制化」の議論が加速し、「過剰債務」へのアプローチが多様化してきた。
長かったコロナ禍にようやく薄日が差し始めた2022年を振り返り、2023年を展望する。
倒産件数は歴史的な低水準も底打ちから増勢へ
2022年の全国企業倒産は、2019年(8,383件)以来、3年ぶりに前年を上回ることが確実になった。新型コロナ関連の各種支援効果が薄れ、原油価格の高騰や原材料・資材価格の上昇、ロシアによるウクライナ侵攻などの複合的リスクが、長引くコロナ禍で疲弊した中小企業の経営を直撃している。
2022年1-11月の企業倒産は、件数が5,822件(前年同期5,526件)、負債総額が2兆2,522億7,100万円(同1兆575億2,200万円)にのぼる。四半期ベースの件数は、1-3月1,504件(前年同期比3.2%減)、4-6月1,556件(同4.4%増)、7-9月1,685件(同16.4%増)と、第2四半期から増加に転じている。
負債総額は、6月に民事再生法(簡易再生)を申請したマレリホールディングス(株)(TSR企業コード:022746064、負債1兆1,330億円、以下マレリHD)が負債を押し上げたが、全体では負債1億円未満が72.2%(1-11月)を占め、依然として小・零細企業を中心に推移した。ただ、負債1億円以上5億円未満、5億円以上10億円未満の各レンジでは前年同期を上回り、負債はやや大型化してきた。これは、実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)などのコロナ支援策を利用したことで負債が膨らんだ企業が多いことが背景にある。いわゆる「過剰債務」問題の顕在化でもある。
また、「新型コロナ」関連倒産は、9月以降3カ月連続して200件台で推移し、調査開始の2020年2月からの累計は4,508件に達した。11月は全倒産の3割強(36.8%)を占めるまでに深刻度が増している。
ゼロ・ゼロ融資の元本返済が本格化し、2023年4月からは最長3年間猶予されていた利払いも始まる。一方で、業績回復が遅れ、返済原資を確保できない企業は少なくない。今年10月20日に一時、32年ぶりの1ドル=150円台を付けた急激な円安は、その後は一進一退を続けているが、コスト上昇圧力は一段と強まっている。価格転嫁が出来ず、自助努力も限界に達した小・零細企業を中心に企業倒産は増勢傾向で、2023年もこの傾向が続きそうだ。
拡充される私的整理の死角
2022年ほど「私的整理」に注目が集まった年はない。
3月に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が公表され、4月から運用が始まった。再生型に加え、廃業型私的整理手続きも定め、過剰債務に苦しむ企業の出口戦略として活用が期待されている。ただ、廃業型の場合は対象債権者にリース債権も含まれている。このため、一部で混乱も見込まれるが、実務の積み重ねや関係先への丁寧な説明、手引書の充実などで、徐々に浸透していくとみられる。
6月には、マレリHDが民事再生法を申請、大型倒産となった。3月に事業再生ADRを正式申請して以降、海外の金融機関との調整が難航しているとの情報が日を追うごとに広まり、6月中旬にはマスコミや関係者が一斉に「簡易再生」を学習する事態となっていた。今回の簡易再生は、2021年の産業競争力強化法の改正で規定され、事業再生ADRのなかで検討された再建計画の成立見込みの予見性向上が盛り込まれた。事業再生ADR成立の後押しを主眼としている。だが、結果としてマレリHDは法的整理となった。実務家からは「簡易再生の規定があったので、迅速に再生計画が認可決定され、事業価値の毀損が防がれた」と評価する声もある。その一方で、マレリグループの取引先からは「債権者会議が非公開で進むなか、与信判断に必要な情報が提供されず対応に苦慮した」との声が続出した。
簡易再生の規定については、「事業再生ADR手続きで反対債権者を説得するインセンティブが削がれ、安易に簡易再生を指向する風潮が生まれてはならない」と指摘する専門家もいる。私的整理は、どの立場に立つかで見える風景は大きく変わる。実務積み上げのなかでの最適解の醸成を期待したい。
また、2023年の通常国会への提出を目指し、「私的整理の法制化」に向けた議論が活発だ。主たる対象債権者として想定される金融界から表立って反対意見は噴出していないが、対象債権の範囲やこれまで整備されてきた準則型私的整理との棲み分けなど論点は多い。
私的整理は金融機関のグリップ力が問われるが、そもそも金融緩和や多行取引の浸透でデッドガバナンス(金融機関による経営監督機能)は効きにくい。「海外では債務者の取締役に債権者への善管注意義務違反を課す国もあり、私的整理が機能しやすい。だが、日本はそれが弱く、私的整理局面で手遅れのケースもある」と問題点を指摘する実務家もいる。
私的整理の枠組みは急速に広がりをみせるが、2023年はその真価が問われる年になりそうだ。
法的整理に移行したマレリHD(2月撮影)
環境激変の「新電力」、サービス休止や撤退相次ぐ
2021年から続く電力需給の不安定は、2022年に入っても資源価格の高騰、ロシア・ウクライナ情勢を背景にさらに深刻化した。「電力自由化」のもとで時代の寵児として注目された新電力が苦境に立たされている。
電力調達価格に左右される新電力各社は、軒並み逆ざや経営に陥った。3月には(株)ホープエナジー(TSR企業コード: 137083300)が負債300億円を抱えて破産を申請した。新電力では(株)F-Power(TSR企業コード: 297969072、2021年3月会社更生)の負債464億8,500万円に次ぐ、大型倒産となった。ホープエナジーは自治体や官公庁関連との契約で事業規模を急拡大してきたため、混乱は地方行政などにも広がった。また、12月1日には(株)シナジアパワー(TSR企業コード:016283236)が負債130億円を抱え、破産申請した。
2022年の新電力の倒産は、12月1日時点で7件を数える。一方で、経営環境に改善が見込めず、事業規模を問わずサービス休止や事業撤退を表明する新電力も相次いだ。そして、法人契約を中心に、新たな契約先が見つからない「電力難民」問題が生まれた。
2016年4月の電力小売自由化以降、新電力業界は順調に市場を拡大し、全販売電力量の約2割を占めるまでに成長した。大手電力会社の寡占状態が長く続いたが、需要家は価格やライフスタイル、価値観などに応じ電力会社を選択できるようになった。だが、多くの企業が参入したことで競合が激化し、ここに調達価格の高騰が直撃したことで、はからずも事業基盤の脆さが浮き彫りになった。
制度改革など、政策にも左右されるが、新電力は来年も厳しい状況は避けられそうもない。事業撤退や倒産などの淘汰の波にさらされ、「電気を安く仕入れて利ざやを稼ぐ」ビジネスモデルが根底から揺らいでいる。
ホープエナジーの入居するビル(3月撮影)
その信用、確かなものですか
7月、イギリス発のチョコレートブランド「ホテルショコラ」を展開していた(株)ホテルショコラ(TSR 企業コード:028957962)が負債約51億円を抱えて民事再生法を申請した。
円安の影響に加え、実質的な親会社でロンドン証券取引所に上場する英国のHOTEL CHOCOLAT GROUP PLC(DUNS: 219531144)を中心としたグループ企業の業績が悪化し、日本事業に投じる余裕がなくなったのが要因だ。
国内の金融機関からの資金調達はなく、負債約51億円のうち、グループ会社からの借入金が約39 億円を占めた。積極的に店舗展開したが、赤字経営から脱却できず、資金面はグループ会社への依存を深めた。「英国の親会社は株式上場する業界大手」という“思い込み”がホテルショコラの信用背景だったが、裏返すと資金の一本足経営が弱点でもあった。
10月に破産申請した医薬品・医療機器卸の(株)コーケン(TSR企業コード:290914485)もまた、JAの系列団体による100%出資が信用背景だった。取引先のアイテック(株)(TSR企業コード:291752233)に巨額の不良債権が発生し、ほどなく連鎖的に行き詰まった。不良債権が発覚すると、親会社のコーケンへの支援が注目を集めたが、複雑な資金の流れが解明できないまま、最終的に事業継続は困難と判断され破産を選択した。
また、前出のシナジアパワーは、東北電力(株)(TSR企業コード:140009051)と東京瓦斯(株)(TSR企業コード:291103561)の共同出資だ。
「●●の系列企業」や「●●からの出資」は、信用の目安としてポイントになる。仮に業績や財務内容が惨憺たる状況でも、親会社などからの支援が見込める場合、事業継続に懸念なしと判断することもある。だが、前述の3ケースのように、親会社の存在感が強ければ強いほど外部からは危機なのか、救済されるのか、なかなか判別できない。「親会社との関係性や距離感」は、会社の実力を測るうえで、ともすれば判断力を鈍らせる厄介なファクターで、そこに与信管理の難しさがある。
ホテルショコラの店舗(9月撮影)
今ふたたび注目の「手形」
~「電子交換所」のスタートと「大型倒産」~
2022年は手形の歴史的転換点となった。明治12(1879)年に大阪交換所が設立されてから143年。2022年11月2日に全国の手形交換所が業務を終了した。そして、休日明けの同4日から電子交換所がスタートした。政府は紙の手形や小切手を2026年度をめどに廃止の方針を示し、でんさいなど電子化への移行が加速してきた。
ある地方銀行の担当者は、「たしかに手形の紛失リスクは減ったが、新システムに慣れておらず、楽になったとは言えない」と現場の苦労を語る。また、各地の手形交換所で保有していた不渡りは電子交換所に引き継がれていない。このため、11月2日までに銀行取引停止処分を受けた会社が、電子交換所で再び銀行取引停止処分を受ける事態も起きている。
こうしたなか、久しぶりに手形に絡む大型倒産が発生した。10月17日に東京地裁に民事再生法の適用を申請したアイテック(株)(TSR企業コード:291752233)だ。2022年4月期の負債総額は約30億円だった。だが、民事再生申請時の負債は132億円に膨れ上がった。
このカラクリは「簿外の手形割引」にある。アイテックは意図的に脚注に割引手形の残高を記載しなかったとみられる。財務内容は良好を装ったが、実際は海外事業の失敗で資金繰りが悪化し、医療機器販売による手形割引で資金繰りを維持していた。
世の中では手形流通量が年々減少するが、2022年は手形が表舞台に出た1年でもあった。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年12月16日号掲載「2022年を振り返って(前編)」を再編集)
出典:東京商工リサーチ
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