後発薬大手「日医工」、再建への険しすぎる道のり事業再生ADR申請で大きなヤマ場を迎えている

富山県に本社を置く後発薬メーカーの日医工は5月中旬、品質不正の発覚を機に業績が悪化したことなどを理由に、私的整理の1つである事業再生ADR(裁判以外の紛争解決手続き)を申請した。事業再生ADRは、資金繰りが困難になった企業が、金融機関に対して借金の返済猶予や減額を依頼することで再建を目指す、債務整理の1つだ。

借金返済の一時停止で合意

後発薬とは、新薬の特許が切れた後に発売される、新薬と同じ有効成分を含む薬を指す。研究開発費用を抑えることができ、その分安価に販売できる。国の後押しもあり、2005年に32%だった後発薬の使用割合は、2021年には79%にまで上昇した。

この流れで急成長を遂げたのが日医工だ。この10年間で同社の売り上げは倍増。日医工のホームページには、地元の北日本新聞が2019年末に行った田村友一社長のインタビューが今も掲載されている。その中で「(2000年の)社長就任時の売上高100億円は20年で20倍になったが、あと20年務めるとすれば、最終的に50倍の5000億円にしたい」と発言している。

しかし、2020年に歯車が大きく狂い始める。同社の富山第一工場で国が承認していない手順で医薬品を製造していたことが発覚し、翌2021年3月に業務停止命令を受けたのだ。これを機に業績が急速に悪化。さらに直近の2022年3月期は買収したアメリカ事業ののれんの減損などで、1049億円の最終損失を計上するなど、2期連続の赤字となった。

一方、M&A(合併・買収)を繰り返してきたことで、2015年3月末に145億円だった有利子負債は、2022年3月末に1626億円にまで増加。そのうち約半分で、返済期限が1年以内に迫っていた。収益力が低下する一方、有利子負債が膨らんだことで、日医工は借入金返済の一時猶予と、場合によっては借金の減額や棒引きが可能となる事業再生ADRを申請するに至った。

事業再生ADRは民事再生などの法的整理と異なり、裁判所が関与しない。対象は金融債権に限られるので、商品の取引など、事業は通常通り続けることができる。日医工は1回目の債権者集会を5月26日に開き、借入金の返済を一時停止することで合意したと発表している。関係者によれば、6月16日に債権者集会が再び開かれるもようだ。

出荷停止の影響がここまで大きくなった背景には、日医工ならではの事情がある。ある同業関係者は「日医工はシェア拡大が第一目的で、不採算品目を多く抱えていた」と語る。

日医工ではピーク時に、24時間に近いレベルで工場を稼働させ、数量を稼いでいた。一方で外注比率も高く、業界の中でも日医工の原価率はとくに高かった。2021年度の国内事業の原価率は、同業のサワイが64.8%、東和薬品が54.7%だったのに対し、日医工では100.5%(前期は88%)に上っていた。

さらに「薬価改定」が強い逆風となった。2021年以降は基本的に毎年薬価が下がるようになり、発売して時間が経つほど、利幅は小さくなる。そのため毎年、特許が切れてから間もない薬の後発品を売ることが、採算改善につながる。

だが、「(2021年春の業務停止によって)医療機関が日医工の商品を避けた結果、新規採用品での日医工のシェアが下がった」(業界関係者)。採用から年次が経過した不採算品の構成が高くなったことで、採算悪化につながった面もあるようだ。

カギを握る「事業再生計画」

こうした流れを受け、事業再生ADRを申請した日医工だが、これで安堵することはできない。

事業再生ADRでは債権者全員の合意がなければ成立せず、ハードルは低くない。2022年3月末時点で日医工は、三井住友銀行から428億円、日本政策投資銀行から224億円、農林中央金庫から203億円を借り入れている。

債権者集会について、日医工は「合意があったときのみ開示する」というスタンスであり、内容や日程はわからない。だが、「重要なのは2回目の債権者集会で、金融機関が納得する事業再生計画を提示できるかどうか」(帝国データバンク東京支社情報統括部の内藤修氏)だ。

金融機関に支援を求める場合、原則としては役員の退任などで経営者責任を果たすことに加え、不採算の後発薬の取り扱い削減など、身を切り納得してもらうことが必要になる。

だが、現在の拡大路線を築いてきた、就任して22年になる田村友一社長は創業家出身で、現時点で会社側は社長交代について否定している。また、仮にリストラ対象が不採算品だった場合、日医工が作っていた薬を他社が大量に引き受けることができない限り、その薬を服用していた患者に多大な影響が及ぶことになる。

ある競合メーカーの社員は「日医工は利益度外視で利幅が小さい商品を作っていた。それを積極的に引き受けるのは難しい」と話す。別のメーカー社員からは、「毎年薬価が引き下げられ、利益が圧迫される制度自体が変わらない限り、日医工の尻ぬぐいはできない」という声も上がる。

足元で続く後発薬不足

経済産業省によると、2021年3月までに86件の事業再生ADRの申請があり、債権者全員の合意を得たのは60件だった。事業再生ADRが成立しなかった場合は、法的整理に移行する。その場合、医療機関など、金融機関以外の取引先との間にも影響が生じ、イメージの毀損度も大きくなる。

足元ではいまだ、後発薬不足に改善の兆しが見えない。トップメーカーだった日医工の供給が滞っていることを受け、他メーカーに切り替えようとする医療機関が増加。その結果、後発薬自体が不足し、先発薬でまかなおうとする動きもある。

メーカーは不足する薬について、可能な限り既存の患者への影響を優先し、新規患者への提供を制限している。そのため、一部の患者にとっては、薬の選択肢が狭まるほか、先発薬への切り替えによって費用の負担が増える状況が続いている。

日医工は、富山第一工場の正常化を2023年秋以降とみる。その間の不足分を、他社で補えるかというとそうではない。2021年度、日医工を抜いて後発薬の数量シェアでトップとなったサワイグループホールディングスの末吉一彦社長は、5月12日に行われた決算会見で、需要が供給を上回る状況が続いているとし、「医療機関からの要請にすべて応えることは難しい」と話した。

数量シェア2位の東和薬品の吉田逸郎社長を含め、業界関係者らは皆「日医工にいちはやく再建してもらうことを望む」と口をそろえる。社会的影響が大きいだけに、法的整理は避けたい事態だが、金融機関の同意が得られるかは不透明である。

国民の医療費削減に貢献することを目的に、多くの後発薬を手がけてきたはずの日医工。多くの人々の生活を支えてきた後発品メーカー大手が経営破綻となると、その影響は計り知れない。それだけに日医工が提示する再建案が持つ意味は小さくない。

兵頭輝夏

出典:東洋経済オンライン

 

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