2021年の倒産件数が歴史的低水準になる可能性が高まってきた。帝国データバンクが12月8日に発表した11月の件数は468件で11月として過去最少を記録。11月までの累計件数は5514件で前年同期比24.0%減となった。コロナ禍にありながら倒産が減り続けるねじれ現象を振り返るとともに、今後の見通しを考える。(帝国データバンク情報統括部 阿部成伸)
● 6000件を下回れば 55年ぶりの低水準
このままのペースで推移すると、2021年(通年)の倒産件数は6000件を下回る可能性が高まってきた。現実となれば1966年の5919件以来、55年ぶりで歴史的な水準となる。 6000件を下回るかどうかは、12月の倒産件数が485件以下となるかがポイント。ちなみに2011年から2020年までの10年間で12月の倒産件数が11月の倒産件数を上回ったのは2015年と2017年だけだ。
12月の倒産件数が変動する最大の要因は何といってもオミクロン株だ。 万が一、急拡大して飲食店や小売店の営業に制限がかかることになれば、年末年始にかけて事業継続を断念する事業者が増加する可能性もある。 ただ、近時はコロナ感染者数の大幅減少、緊急事態宣言の解除、会食人数制限の緩和などを受けて、経済活動が本格的に再開される期待感が高まり、事業継続に前向きになる経営者が増えていると分析している。
● 倒産は減少ではなく 抑制されている
コロナ禍で人の動きは制限され、企業活動は停滞し、2020年度決算が最終赤字となる中小企業が続出した。手がける事業によっては、運良く需要拡大となった事業者もあるが、飲食店をはじめ大半はかつてない厳しい経営環境に置かれることとなった。 にもかかわらず、倒産件数が増えない最大の理由は、政府主導のコロナ支援策があったからだ。コロナ前に受けた融資のリスケジュール、コロナ対策の緊急融資(ゼロゼロ融資)、協力金、補助金、納税猶予などがかつてない規模で執行され、中小企業の手元資金を増加させた。 緊急融資は金利が付かないので必要がなくても「念のため」ととりあえず借りた事業者も多いようだ。緊急融資は第1回の返済まで最大5年の据え置き期間が設けられ、売り上げが激減し債務超過に転落してもコロナが理由であれば債務者区分引き下げを見送られたケースは多かったようだ。 また、上場企業の上場廃止猶予期間においては、コロナが要因であればその期間が1年延長された。 つまり、倒産は減っているのではなく、意図的に抑制され続けていると理解すべきだ。 コロナ前の2019年の倒産件数は8354件。2020年、2021年とコロナ禍で事業者向けの支援が執行されなかったとしたら、倒産件数はおそらく1万件に達していただろう。2021年が仮に6000件前後となれば、その差である4000件近い倒産が抑制されているとも解釈できる。
● 全国30万社が 慢性的な経営の限界か
コロナ対策の緊急融資で倒産は抑制されているが、企業の倒産リスク自体が低下しているわけではない。コロナ禍において、企業の財務不健全化リスクが急激に上昇しており、その状況はリーマン・ショック当時に迫っている。 帝国データバンクが保有する財務データを基に、国内企業の経営破綻リスクをインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR、利払い負担に対する利益の比率)を用いて分析したところ、過去3年にわたってICRが1を下回る状態(=利益から債務利払いが不能の状態)が続いている企業(経営破綻懸念企業)が全体に占める割合は2020年度で7.36%に上った。 つまり、全国の企業数が約400万社あるとされるなか、推計で約30万社が慢性的な経営の限界に陥っている可能性があるのだ。 ある地銀の幹部は、今後生き残れる中小企業と残れない中小企業の大きな違いは「うまくいくかは別として、コロナによる変化に対応しようとする意識があるかないかにある。昔ながらのやり方にこだわる事業者ほど難しい」と話す。言い換えれば経営者の意識次第だ。 コロナによる変化対応の代表格はDXだろう。 帝国データバンクが今月に全国の企業向けに実施したアンケート(有効回答企業数1614社)では、中小企業がDX推進に向けた具体的な取り組みの上位は「ペーパーレス化」(選択率58.8%)、「オンライン会議設備の導入」(同57.7%)、「アナログ・物理データのデジタルデータ化」(44.9%)などDXの初期段階の項目に集中した。 一方、デジタル技術を活用して「既存製品・サービスの高付加価値化」や「新規製品・サービスの創出」といったDXの本格的な取り組みを始めている企業は全体の1割程度。業種では金融業の取り組みが進む一方、農林水産業での遅れが目立っている。
● 取引先や金融機関の 来春の対応に注目
オミクロン株の影響が拡大せず、さまざまな制限が解除・緩和されていけば当面、倒産が抑制される状態が続くだろう。 そうしたなか、直近で分岐点となり得る時期を挙げるとすれば、新年度を迎える来年の3月から4月頃ではないか。 3月決算が集中する国内企業の多くは、新年度に合わせて新たな事業計画を練り、人事も刷新する。つまり、取引先や取引量などの見直しが行われるタイミングでもあり、取引先がふるいにかけられるわけだ。 コロナ前は問題なかったが、コロナ禍で業績が悪化した上、コロナへの対応の遅さや不備が露呈すれば減点されて取引を打ち切られるケースもあるだろう。そして金融機関と融資を受ける中小企業の関係においても似たようなケースが出始めるかもしれない。 現在のような状態が続くことで、審査担当者の倒産に対する感度が下がり、危ない会社を見分ける能力が低下することは企業にとって大きな痛手だ。 倒産は減っているのではなく、抑制されていること。約30万社が慢性的な経営の限界に陥っている可能性があることを念頭に置きながら、今後の倒産データに注目していただきたい。
出典:ダイヤモンドオンライン