立て直しに挑む中国経済に立ちはだかる3つの壁

中国の2022年の国内総生産(GDP)成長率は3.0%に終わり、年初目標の5.5%を大きく下回った。成長率の推移をみると、第1四半期は4.8%と巡航速度に戻るかと思われたが、その後、0.4%、3.9%、2.9%と減速している。低成長の原因を需要要因別のGDP成長貢献度によって確認してみよう。  

消費の不調が際立っていることがわかる。特に第2四半期の落ち込みは、新型コロナウイルス感染症の流行拡大(以下、コロナ禍)で上海等の大都市がロックダウンされた影響が大きく、第4四半期の低迷もやはりコロナ禍が原因と考えられる。低成長の第1の原因は、消費の不調であったと結論できる。  

これを補うことが期待された投資(固定資本形成)は第4四半期にようやく上昇している。同年5月以降に実施された総合経済対策(いわゆる「6分野33項目」)の効果が顕れたものと推測できるが、全社会固定資産投資自体は対前年比5.1%増とそれほど伸びていない。21年以降に成長の下支えとなってきた輸出の貢献度も第4四半期にはマイナスとなるなど、消費の落ち込みをカバーするには不足であった。  

一方、失業率は5.5%と高止まりし、特に若年層(16歳~24歳)の失業率が16.7%に達した。これは、若年層の就業の受け皿となってきたサービス業が不振だったことが大きい。  不景気が直撃した飲食業、宅配業などは当然として、IT産業や学習塾などが政府の規制を受けて成長できなくなったことは決定的であった。高失業率のもと消費需要は低迷し、成長のモメンタムが失われる、という悪循環が続いたのが2022年だったといえる。

成長構造問題・課題の顕在化

 以上で見たような短期の景気循環に属する問題に加えて、成長構造に関わる問題・課題が明らかになったのが22年の特徴である。  

まず、需要要因別の成長構造を見ると、習近平政権の発足前後から、中国経済の成長は6%台が巡航速度となり、消費が牽引する構造に移行していた。試みに15~19年の5年間をみると、平均で6.6%成長し、うち消費の貢献度は4.2%に達していた。  

このような消費主導型の経済成長は、先進国と共通するもので、中国経済の成熟ぶりを示すものでもあった。この構造をかく乱したのが20年以降のコロナ禍であった。20年~22年の平均成長率は4.5%、消費の貢献度は1.9%に落ちている。持続的な成長のためには、コロナ禍以前の成長構造を取り戻すことが課題である。

 次に、不動産業へ過度に依存した成長によってもたらされた問題がある。中国経済における不動産・同関連産業(建設業、建材工業、不動産販売業、関連サービス業)のプレゼンスについてはさまざまな研究があるが、米国研究機関(National Bureau of Economic Research)の20年の研究報告によれば、そのGDPに占める比率は16年時点で28.7%に達したとされ、同時期の米国の約17%に比してかなり高い。それだけに不動産投資の経済波及効果は大きくなるが、問題も多い。  

問題の第1は不動産バブルである。中国では長期にわたって同分野への大規模な投資が続けられて来たため、不動産価格が実需を大きく超えた水準となっている。  

たとえば住宅の平均価格は北京、上海などでは年収の25倍超に達している。通常返済可能とされるのは年収の6倍前後までとされ、明らかにバブル状態である。  

第2は、地方財政の不動産依存度が高すぎることである。地方政府が土地使用権をデベロッパーなどに譲渡した収入が財政に占める比率は、1位の浙江省が55.5%であるのを筆頭に13の省で40%超となっている。同収入がインフラ建設やプロジェクトに投資されることで地方経済の発展が牽引されれば好循環となるが、それがまた不動産に投資され、ますます不動産依存度が高まるという悪循環も起きている。  

第3は、金融への悪影響である。商業銀行の貸出残高の30%が不動産向けと言われており、上記したバブルがはじければ、その影響は金融システム全体に及びかねない。これは、専門家がいうところの「灰色のサイ」(高い確率で深刻な問題を引き起こすと考えられるにもかかわらず、普段は軽視されがちなリスク)である。

「3つの下押し要因」が意味するもの

 上記したような成長構造の問題・課題の中で今後を左右するのは「3つの(景気)下押し要因」である。この用語は21年12月の経済工作会議以降注目されているもので、(1)需要の収縮、(2)供給不安、(3)期待の弱体化、を指す。  

(1)は、コロナ禍による消費の収縮、それに連動した投資の収縮、(2)は、コロナ禍によるエネルギー資源、小麦などの食糧の供給、米中摩擦などによる半導体供給の不安定化と価格高騰、(3)は、これら要因による企業や消費者などの将来期待の弱体化、を内容としている。  

年度計画を決定する同会議の性質上、短期的な説明要因として用いられているが、実はこれらの要因は中長期的にも存在している。第3期目をスタートし、さらなる長期政権を目指す習近平政権には、短期的課題と中長期的課題に同時に取り組むことが求められるはずである。  

たとえば(1)には、人口構造が関わっている。労働力供給という意味では、生産労働力(15~64歳)人口比率は2010年がピークだったとみられ、22年の同人口は9.8億人で25年にはほぼ同数であるものの、30年9.7億人、35年9.3億人に減少するとみられる(国連世界人口推計2022による)。10年余で5000万人の減少である。  

しかも、全人口の老齢化は加速していく。22年の65歳以上人口比率は14.9%と国連基準の「高齢社会」となっているが、さらに85万人の人口減少が記録された。こうした人口構造の大転換を政策的に変えていくことは難しく、今後、需要の拡大は望みにくい。  また(2)については、ウクライナ戦争という大きなマイナス要因が加わり、米中摩擦も激化している現実がある。このうち後者については、サプライチェーンのデカップリングが進行しており、中国にとっての供給不安は継続しそうである

 最後に(3)についても明るい材料が見当たらない。経済成長を支えてきた不動産業が不振である。すでにバブル状態にあり、今後人口が減少して不動産需要が縮小していくことを考えるとその好転は難しい。  

さらに、第14次5カ年計画(2021~25年)で経済を牽引すると期待されてきた新興産業も伸び悩んでいる。新興産業の不調については、政府のITプラットフォーマーや教育産業などへの強い規制政策が原因となっており、この点で政府のスタンスが矛盾していることも不安材料である。

経済好転への3つの壁

 2023年において経済の好転を図る鍵は、3つある。  

第1は、不動産市場・産業の立て直しである。ことは、報じられてきたような不動産企業の立て直しに留まらない。バブルを解消し、不動産に滞留する資金の流れを正常化しなければならない。 ただし、日本がバブル崩壊期に経験したような混乱を避けようとすれば、中央政府の財政出動により不動産価格下落の景気下振れ圧力を緩和する必要がある。その場合、中央財政の赤字拡大が要注意事項となる。  

第2には、地方財政の立て直しである。不動産頼みの地方財政の危うさについては既に指摘したが、さらにゼロコロナ政策で地方政府に負わされた負担が加わる。中国メディアの報道によると、支出の多かった広東省711.39億元(約1.35兆円)をはじめ報じられた8省合計分だけで2082億元(約3.95兆円)に達している。  

インフラ建設から民生まで大きな役割を担う中央財政の立て直しは急務である。ただし、景気が低迷する中、それは容易ではないだろう。  

第3に、そして最も重要なのは、コロナ禍の中で冷え込んだ消費マインドの転換を図ることである。財政出動による景気下支えだけでなく、民営経済政策の転換が求められているように思われる。  「民営経済は税収の50%超、GDPの60%超、イノベーションの70%超、都市部雇用の80%強、企業数の90%を占めている」(劉鶴副首相)。国有経済を重視する習政権であるが、この現実からスタートする必要がある。  

ここまでで分析してきたように、求められているのは、短期的課題と中長期的課題に同時に取り組むことである。中国政府の舵取りは、これまでになく難しい局面を迎えているといえよう。

以上

出典:Wedge / 2023年3月4日

関連記事