2022年を振り返って(後編)

相次ぐグループ企業の破産と代表者の「過去歴」

 2022年は介護事業者の倒産が相次いだ。機能訓練型デイサービス「ステップぱーとなー」を経営し、フランチャイズ事業も展開していた(株)ステップぱーとなー(TSR企業コード:300099150、以下SP社)の倒産は、その代表例だろう。
SP社は介護事業者のM&Aやアライアンス、福祉貸付資金の利用だけでなく、外国人投資家などからも資金調達し業容を拡大した。全国で150を超える事業所数を運営するまでに事業を拡大したが、8月5日に東京地裁から破産開始決定を受けた。
その後、グループ各社も相次いで破産した。北は北海道から、南は島根県まで38社で、債権者数は延べ1,648名、負債総額は35億8,900万円に達した。
注目を集めたのは、SP社の代表・A氏の「過去歴」だ。A氏の旧姓はBで、過去にサンドイッチ販売を手掛ける企業の代表取締役を務めていた。だが同社は2006年7月、東京地裁八王子支部で破産開始決定を受け、個人でも同月に破産開始決定を受け、同年11月免責を許可された経歴がある。また、SP社を含めグループ会社も有形無形にA氏が関与していたとされる。与信判断の材料として、代表者の「過去歴」や役員兼務先を把握することの重要性を印象付けた倒産でもあった。

今年を振り返って

‌ステップぱーとなーの事務所(7月撮影)

コロナ禍と外食、3年目の現在地

 ワクチン接種率の高まりや感染防止への取り組みが広がり、夜の街にも活気が戻りつつある。だが、大手居酒屋チェーンは、2022年後半に入っても店舗の減少に歯止めがかからない。上場する居酒屋主要16社の店舗数は、2022年9月末で5,387店と、年初の5,686店から5.2%減少した。コロナ禍1年目の2020年は前年比8.7%減(6,661店→6,076店)、2年目の2021年も同6.4%減(6,076店→5,686店)と、閉店が止まらない。
個人店も例外ではない。個人的な話で恐縮だが、記者や金融関係者と懇親会で利用していた和食店は住宅地に近い商店街にあったが、長引くコロナ禍で閉店に追い込まれた。さらに、2次会で利用していた小料理店も女将の“コロナ疲れ”で店じまい。次の行きつけを見つけられず、暖簾くぐりの放浪が続く。
コロナ禍は外食産業を飲み込んだ。飲食店を支援する各種助成金や自治体の制度融資は、時間を置いて行き渡ったが、浸透するのに時間を要した。コロナ禍の当初、23区内の役所では申請まで1~2カ月待ち、助成金の支給には3カ月待ちで、実際の支給まで3カ月から半年を要するケースも散見された。せっかくの支援策も行き渡るのに時間を要し、当座の資金繰りに窮する企業が相次いだ。飲食業者が被告の訴訟もコロナ禍で急増した。
東京地裁の飲食業者が被告の訴訟は、コロナ前の2019年は82件だったが、2020年は159件に急増(前年比93.9%増)、2021年も118件と高止まりで推移した。
なかでも、「建物明渡・賃料」は2020年89件(構成比55.9%)、2021年52件(同44.0%)と訴訟の半分近くを占め、売上消失で家賃負担に苦慮した飲食業者の姿が浮かび上がる。2022年も飲食業者が被告の訴訟情報が続々寄せられている。2022年3月、飲食業のコロナ関連倒産としては最大の負債約80億円を抱えて破産を申請したアンドモワ(株)(TSR企業コード:575413077、東京都港区)は、東京以外にも金沢や福岡など全国のテナント入居先から賃料未払いによる訴訟を起こされていた。
2022年1-11月の飲食業の倒産件数は462件と、2021年同期(596件)比で22.4%減と小康状態で推移している。ただ、10月に全都道府県で最低賃金が30円以上引き上げられた。さらに、農林水産省の調査によると、「食肉」「鶏卵」「加工食品」など主要食料品の価格は、夏から毎月、前年同月を上回る状況が続く。コロナ禍の長期化や原材料高騰、人件費の度重なる上昇などは、飲食業者のマインドを冷やしている。今後、経営改善や人手確保のため、小規模店でも「値上げしやすい」環境づくりへの支援が急務になってくるだろう。

今年を振り返って

‌アンドモワが運営していた店舗(2020年4月撮影)

コロナの捉え方は人それぞれ

 2022年も倒産の現場を数多く歩いた。倒産企業の関係者を取材すると、原因は新型コロナ感染拡大による販売不振が大半を占める。そんな時、ほぼ同時期に破産したアパレルブランドの企画卸を手掛ける2社の取材が記憶に蘇る。両社とも以前から繊維不振に耐えていた。そこにコロナ禍が直撃し、たちまち苦境に陥った。だが、取材するとコロナ禍の捉え方が大きく異なった。
主にジーンズ企画卸を手掛けるA社は、不況による粗利率の低下などに耐え続けていたが、先行きは不透明で社長は密かに「辞め時を探っていた」(社長)という。そこに押し寄せたコロナ禍で「これで事業停止に踏ん切りが付いた。コロナ禍が背中を押してくれた」と、どこか清々しさも感じる口調で話してくれた。
一方のB社。社長の弁は対象的だった。主に婦人服の企画卸を手掛けていた社長は、「(倒産は)コロナ禍が要因。今さら倒産した会社をほじくり返すな」と吐き捨て、それ以上は取り付く島もなかった。周辺を取材すると、「コロナ禍がとどめを刺した」という話に間違いはなさそうだった。社長は5年前に代表に就任し、そこからアパレル事業を拡大してきた。
それだけに事業環境を大きく変えてしまったコロナ禍が憎らしく、無念だったに違いない。
現在も事業継続する企業のなかには、ネット販売への転換など、柔軟な対応で切り抜けている企業もある。逆境こそチャンスと言われるが、業界を揺るがす地殻変動が起きた時こそ、従来のビジネスモデルから大きく軸足を移すきっかけにもなる。何事も捉え方次第で、その後の結果も大きく変わるのかも知れない。

「もはやコロナ禍ではない」に滲み出る「複合危機」

 2020年2月から実施している企業アンケートでは、2020年6月に約8割(78.7%)を占めていたコロナ禍の影響が「継続している」企業の割合は、コロナ禍も丸3年が近づく2022年10月は64.5%まで減少した。ところが、コロナ禍と現在の事業環境についての質問(10月)では、「事業環境は平時を取り戻した」は16.7%にすぎず、約8割(78.8%)の企業が「コロナ以外の環境変化への対応」に言及した。
2022年の主な環境変化では、ウクライナ情勢は50.9%(6月)、急激な円安は54.1%(10月)の企業が、経営に「マイナス」の影響と回答した。そして、原材料費の高騰を価格転嫁できていない企業も46.0%(10月)にのぼった。
コロナ禍前(2019年)と比べて減収だった企業は56.4%で10月も半数を超えた。減収企業の割合が最大だった2020年5月の83.7%からは大幅に改善したが、依然として過半数の企業がコロナ禍前の売上水準に達していない。
こうしたなかで、実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)をはじめとする資金繰り支援策は、コロナ禍で企業倒産の抑制に貢献した。一方で、2割近い企業がコロナ禍以降に「過剰債務」に陥る深刻な副作用も生み、その影響は4月以降の倒産の反転増というかたちで、次第に表面化しつつある。
10月は、企業の8.3%が「ゼロ・ゼロ融資の借換ニーズあり」と回答した。コロナ禍の想定以上の長期化や2022年以降の事業環境の変化で業績回復が進んでいない企業は多い。そうした企業に、コロナ禍での資金繰り緩和に効果を見せたゼロ・ゼロ融資だったが、今度は経営の足かせになろうとしている。
「もはやコロナ禍ではない」は、コロナ禍からの脱却ではなく、より複雑な「複合危機」への突入を示唆している。企業と支援する政府、自治体は、それぞれの出口戦略を問われている。

2023年の展望

~ゼロ・ゼロ融資の本格的な返済開始と中小企業の息切れ~

 2022年はコロナ禍の支援効果も薄れ、企業倒産も減少から増加に転じた。倒産増加の予兆はすでに出ていた。全国信用保証協会の保証実績推移(11月29日公表)では、代位弁済件数が2021年9月以降、2022年10月まで14カ月連続で前年同月を上回っている。
また、2022年10月の代位弁済件数は2,379件とコロナ禍前の水準に戻しつつある。
2023年は倒産抑制に効果をみせた実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)の利払いがスタートする。最長3年間の利子補給の終了は、収益改善が進まない企業には“サイレントキラー”にもなりかねない。
すでに元本返済が始まる前から業績回復が遅れ、返済が見通せない企業が金融機関に相談するケースは多く、そうした企業の中には返済開始と同時にリスケ(返済猶予)を要請する企業もある。また、自治体の借換え資金を利用する企業もある。ただ、債務の過剰感は強く、真水での資金調達ではなく、大半は単なる返済の先送りが多い。
円安や原材料・資源高、エネルギーコスト増大などで中小企業の資金繰りは一段と厳しさを増している。支援効果が薄れ、コロナ関連支援の返済開始で2023年の企業倒産は増勢ピッチが速まる可能性も残している。
一方、ゼロ・ゼロ融資は企業だけでなく、金融機関の支援でもあったといえる。通常の貸出金利が1.0%を下回る低金利が続くなか、コロナ貸出は平均1.2%前後と高い金利に設定されている。さらに、元本は信用保証協会が100%保証、利子は自治体が補給していた(最長3年間)。コロナ融資は緊急避難的な中小企業の資金繰り支援が目的で、コロナ禍の当初は政府が「ノー審査」でも貸出を実行することを推奨した。それだけに貸出先確保に苦慮していた金融機関には貸出金を伸ばす絶好の機会でもあった。
2023年はコロナ支援の結果を問われる年になりそうだ。資金繰りが改善しない企業を中心に、倒産の増加も危惧され、貸出先の消失が避けられない。ただでさえ、収益環境が厳しい金融機関が生き残りをかけて、他行との連携などを含め金融再編の流れが活発になることも予想される。
2023年は、コロナ禍で傷んだ企業の経営再建と同時に、金融機関も目利き力や経営能力が試される年になるかもしれない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年12月19日号掲載「2022年を振り返って(後編)」を再編集)

出典:東京商工リサーチ

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