ゼロコロナで景気失速/海外金利上昇で外需に悪化リスク
【北京=川手伊織】中国政府は、銀行の突発的な破綻など金融危機のリスクを防ぐ基金をつくる。数兆~十数兆円規模を計画する。金融機関を公的管理下に置くための資本注入などを想定する。新型コロナウイルス対応の厳しい行動制限で中国景気が失速し、米国など世界的な金利上昇で外需が悪化するリスクも高まっている。金融システムの混乱防止のため金融の安全網を強化する。
政府の統計によると、中国商業銀行の不良債権比率は3月末時点で1.7%にとどまる。ただ不良債権の認定が甘く、実際の比率はより高いとの指摘は多い。
日本総合研究所の関辰一主任研究員は、上場企業約3300社の営業キャッシュフローや支払利息から「潜在的な不良債権比率」を試算した。2020年末で8%程度と、政府統計の4倍を超す。日本の主要銀行が02年3月期に付けたピーク(8.4%)とほぼ並び、「直近も高止まりしているとみられる」と分析する。
新たな基金は「金融安定保障基金」と呼ぶ。政府が管理し、公的資金の組み入れも可能とするが、拠出金は主に金融機関や決済など金融インフラ企業から集める。金融機関からすでに646億元(約1兆2800億円)を調達し、9月までに数兆~十数兆円規模に増やす方針だ。
日本は1990年代後半以降の金融危機で大手銀行や地方銀行に約12兆円の公的資金を注入した。中国の新基金は同等の規模になりそうだ。米国は08年のリーマン・ショック直後、金融機関に資本注入できる7000億ドル(当時の為替レートで約70兆円)の公的資金枠を設けた。
米国では破綻処理に使う基金の整備も進んだ。10年に成立したドッド・フランク法(金融規制改革法)に基づき、「秩序だった清算基金(OLF)」を創設した。欧州も「単一破綻処理基金(SRF)」を備える。
中国の新基金は銀行や保険、リースなどの大手が主な対象とみられる。大手企業の倒産に加え、国際金融市場の混乱による資産運用の損失拡大などで金融機関の経営不安が強まり、金融システム全体が揺らぎかねないと判断した際に活用する。
当面の流動性を供給し、資金不足による突発的な倒産を防ぐ使い方や、基金からの資本注入で公的管理下に置いて破綻処理を進めて売却するといった活用方法も考えられる。
中国には預金者を保護する預金保険基金のほか、保険業や信託業の基金がすでに存在する。21年末時点の残高は保険業の基金が1829億元、預金保険基金が960億元ある。新基金の規模はこれら従来の基金を上回る公算が大きい。
地銀の経営破綻などリスクが及ぶ範囲が限定的な場合は既存の基金などで対応する。新基金は、既存の仕組みだけで十分な流動性の供給や損失の穴埋めができない場合のバッファーとなる。
基金の活用方法や資金調達は、新法の中国金融安定法案に定める。国会に相当する全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は年内に同法の審議に入る計画だ。
海外では米欧などが金融引き締めに動く。金利上昇が海外景気を下押しし中国の外需を冷え込ませる懸念がくすぶる。国内経済もコロナ封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策で失速した。不動産市場の調整も重荷だ。企業倒産や金融市場などのリスクが重なる。
中国は5年に1度、金融行政の方向性を示す全国金融工作会議を開いてきた。次回会合は年内に開かれる公算が大きく、金融業界への監督強化のほか、金融リスクの抑制策などが重要課題になるとの見方がある。
中国では秋の共産党大会で習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)が3期目入りを目指している。新たな指導部も経済への統制を強めるようなら、政策不況に伴う金融リスクが高まりかねない。ゼロコロナ政策のもと感染再拡大で行動制限が強まれば、銀行の貸出先の経営がさらに落ち込む恐れもある。
中国国内の商業銀行などの対外債務は21年末時点で1兆1900億ドル(約158兆円)と、2年で3割増えた。中国の金融機関の経営リスクが海外にもたらす影響は拡大している。
出典:日本経済新聞