日本企業の「ロシア関連倒産」

日本企業の「ロシア関連倒産リスク」上昇、帝国データバンクが調査結果を解説

5/11(水) 6:01配信

ロシアによるウクライナ侵攻から2カ月が経過した。戦場となったウクライナでは、日を追うごとに被害が拡大しており、「第三次世界大戦」への懸念も絶えない。この間、世界経済にも甚大な影響を及ぼしており、日本企業も例外ではない。帝国データバンクが行った最新調査を基に、ロシア・ウクライナ情勢が企業に与える影響について解説する。(帝国データバンク情報統括部 内藤 修) 【この記事の画像を見る】

ロシアに進出する上場企業の 約4割が停止や撤退を公表  ロシアビジネスから撤退を決める日本企業が相次いでいる。帝国データバンク調べによれば、2022年2月時点でロシア進出が判明した国内上場企業168社のうち、4月11日までにロシア事業の「停止」「制限・撤退」を公表した企業は、全体の約4割にあたる60社が判明。3月15日時点では約2割にとどまっていたが、わずか1カ月で約2倍に拡大した。

業種別では、「製造業」(42%)が全体の4割を占めた。現地工場の操業停止のほか、部品・完成品の輸出・取引を一時停止した企業が目立つ。

大手自動車メーカーの「日産自動車」(東証1部)は3月14日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクにある工場の稼働を停止した。事業再生ADR手続きを3月1日に申請し、経営再建中の自動車部品大手の「マレリホールディングス」(さいたま市)も同様だ。マレリは日産自動車の現地工場内に製造拠点を有しており、同社もまた生産停止を余儀なくされた。

ロシアによるウクライナ侵攻の“余波”を受けた倒産も、すでに発生している。「数の子松前漬」「かに松前漬」など300の商品アイテムを誇った、地場の水産珍味メーカー「味の海豊」(北海道函館市)は、4月10日までに従業員を解雇し、事業停止の意向を固めたことが分かった。負債は金融債務を中心に約13億円だった。

同社は1980年の設立以来、生鮮珍味(50%)、乾燥珍味(30%)、レトルト・缶詰(20%)の商品構成で展開。自社直営店のほか、函館市内の土産物店、食品問屋を得意先に、横浜営業所も開設して、関東・関西地区での開拓にも注力し、2016年3月期には年売上高約7億6600万円を計上していた。

しかし、2020年以降はコロナ禍による地元観光客の減少から業績は悪化し、2021年3月期の年売上高は約5億7000万円に落ち込んでいた。原材料高騰や過去の設備投資負担も重荷となるなか、新型コロナ対応融資の利用も含め、事業の再建を目指していた。しかし、業況の改善には至らず、さらにはロシアによるウクライナ侵攻により原料調達の見通しが不透明となり、資金繰りが限界に達した。

主要な上場食品メーカーは 6000品目超を値上げの計画  日本企業の「仕入れ面」への影響も広がっている。ロシアは日本を含む「非友好国」に対して木材の輸出禁止措置を発動し、日本側もロシア産の木材や機械など38品目を輸入禁止とした。

禁輸対象品目には、ロシアからの輸入依存度が高い「単板」が含まれる。穀物大国のロシアは、非友好国への「食料」の輸出を注意深く監視する考えを示すなど、原材料不足や価格高騰に拍車がかかるおそれがある。

帝国データバンクが4月下旬に行った企業アンケート調査(有効回答企業数=9061社)によれば、ロシア・ウクライナ情勢で原材料や商品・サービスの仕入れ数量の確保に『影響を受けている』企業は、過半数(50.4%)を占めた。また、原材料や商品などの価格高騰で『影響を受けている』企業は3社に2社(66.3%)に上った。

今後の調達面への影響が懸念される業界のひとつ、住宅建売業者の間では「大手ハウスメーカーによる合板買い占めの動き」が、水面下でうわさされている。流通在庫が底を尽きつつあるなかで、「調達難に陥る地場工務店が出てくる」(業界関係者)との見方もある。

食品の値上げも止まらない。食料品の価格高騰は、ロシアによるウクライナ侵攻だけが要因ではないが、世界的な相場上昇を受け、大手、中小を問わず、日本企業の収益圧迫要因となっている。急速な円安進行とあいまって、企業努力で吸収できる範囲をすでに超えており、コスト上昇分を売価に反映させる動きが今後も続きそうだ。

主要上場食品メーカー105社において、2022年以降の価格改定計画(実施済み含む)を調べたところ、4月14日までに累計6167品目で値上げの計画があることが分かった。このうち6割超にあたる4081品目では、4月までに値上げしている。

原材料高の影響を受けた倒産も、相次いでいる。価格転嫁しやすい大手企業はいいが、中小企業はそう簡単にはいかない。

神奈川県を中心に28店舗を展開していた人気ベーカリー(パン製造小売り)チェーン「ベルベ」(神奈川県大和市、2022年3月破産)は、そうした一社だ。創業社長の失踪、粉飾決算の発覚などが破産の主な原因だが、パンの原材料高騰が追い打ちをかけた。人件費も増加するなか価格に転嫁できず、一定の売り上げがありながら、運転資金不足に拍車をかけた。

原油・素材価格の高騰などで ロシア関連倒産が相次ぐ恐れ

帝国データバンクが毎年実施している「業績見通しに関する企業の意識調査」(有効回答企業数=1万1765社)によれば、2022年度(2022年4月決算~2023年3月決算)に「増収増益」を見込む企業は24.1%となった。この数値は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言期間中だった、1年前の調査(27.4%)から3.3ポイントの減少だ。

また、「減収減益」も同2.1ポイント減の23.9%と拮抗しており、2022年度は増収傾向が見られるものの、コスト負担の上昇もあり利益面での厳しさが見込まれる。

業績見通しの下振れ材料(複数回答)を見ると、「原油・素材価格の動向」(52.0%)が1年前から31.2ポイントの大幅増加で過半数を占めた。ロシア・ウクライナを含む「カントリーリスク」(25.1%)は、前年の4倍に急上昇した。「物価上昇(インフレ)の進行」(23.8%)も、4社に1社が下振れ材料に挙げている。

足元の企業倒産は歴史的な低水準が続いている一方で、中小・零細企業を中心に経営環境は厳しさを増している。ロシア・ウクライナ情勢の影響を受けた『ロシア関連倒産』も、早晩相次いで発生するおそれがある。長引くコロナ禍で事業継続意欲が限界に達しつつある経営者は数多く、2022年度は倒産・廃業動向の大きな転換点となる可能性もありそうだ。

出典:ダイヤモンドオンライン

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