[ハノイ 16日 ロイター] – 中国が昨年12月、新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を解除して以来、同国からベトナムへの企業投資が急増している。見えてくるのは、既にベトナムに進出している中国や世界各国の大手メーカーと取引関係がある中国のサプライヤーが、米中貿易摩擦の影響を回避するためにベトナムに拠点を設けるという構図だ。
ベトナム政府のデータからは、同国において年初からの50日間で中国企業が45件の新規プロジェクトに投資し、国別でどこよりも多いことが分かる。専門家に話を聞くと、そうした案件の大半はやはり中国系の中小サプライヤーだった。 背景には、米政府がハイテク関連製品の中国向け輸出規制をじわじわと強化していることや、米中双方が互いに報復関税を発動する展開の中で、中国にいては商売がしにくいという事情がある。さらに中国の人件費高騰も背中を押す要因だ。
工業不動産を専門に扱うBWインダストリアル・デベロップメントでリース事業のシニアディレクターを務めるマイケル・チャン氏は「ベトナムでの製造施設建設投資に関し、中国企業からの問い合わせが昨年10―12月になって飛躍的に増加した。実際の中国勢の投資も目を見張るほど増えている」と明かした。 <国境を越えて> サムスン電子やキヤノン、アップル製品の受託生産を行っている鴻海精密工業と立訊精密工業といった大手メーカーは、いち早くベトナムに進出し、同国ではスマートフォンやプリンターなどさまざまな製品の工場団地が多くの地域に広がっている。
一方、これらのメーカーのサプライヤーは依然として中国が主体。米シンクタンク、ブルッキングス研究所の貿易専門家、デービッド・ダラー氏がアジア開発銀行のデータを用いて計算したところでは、2021年時点でベトナムの輸出品の原材料輸入先の2割強を中国が占め、比率は17年の2倍近くに上昇した。 そして、複数の業界幹部は、大手メーカーのベトナム工場に製品やサービスを提供する中国の中小企業が、特に中国国境に近いベトナム北部への投資の主役になっていると説明する。 例えば、中国勢が牛耳る太陽光パネル製造の分野では、プラスチック製パネルや金型鋳造、エネルギー貯蔵などのサポートを請け負う企業が、ベトナムに入ってきたという。
米不動産コンサルティングのCBREグループのデータを見ると、昨年のベトナムにおける工場の居抜き物件への主な2件の投資取引の背後には、蓄電池を手がける古瑞瓦特(グロワット)を含めた中国の太陽光パネルのサプライヤーの姿が浮かび上がってくる。また、工場リースについても、中国の電子機器、ロボット、家電などのメーカーの支払額が全体のトップクラスだった。
世界全体が新型コロナウイルスのパンデミックから平常に戻るのに苦戦する中で、外国からベトナムへの投資額は全体的には減少しているが、中国企業による製造施設建設投資だけは、今年これまでに2億5000万ドルと前年同期比で3倍に膨らんだ。この投資額は国別でシンガポールに次ぐ大きさで、従来は投資規模が中国を上回っていた韓国や日本などもしのいでいる。 ベトナム北部の工業団地「ディープC」のセールスディレクター、クン・スーネンス氏はロイターに対し、昨年の中国企業との契約調印件数は年末にかけて急増し、10―12月期は他のどの国の企業も上回ったと説明。
「中国からの問い合わせ状況を踏まえると、この流れは今年も続くと見込まれる」と付け加えた。 スーネンス氏によると、新たに自動車部品の厦門日上集団や、太陽光パネル部品の杭州福斯特応用材料、電気自動車(EV)充電施設の星星充電などが進出してきたという。 <歴史的な対立> 中国企業のベトナム進出にはリスクもある。両国は血で血を洗う戦いを繰り返してきた歴史があり、今も南シナ海の領有権を巡る対立は消えていない。そうした中でベトナム国民の反中感情の高まりから、2014年には中国への大規模な抗議デモの一部参加者が暴徒化し、中国企業を襲う事件もあった。 ベトナムでは中国企業からの投資申請は特に注意深く審査される傾向があり、あるコンサルタントによると、従業員の労働ビザや労働許可の取得にもより長い時間がかかる。
それでも中国のサプライヤーがベトナムにやってくる流れは止められない。BWインダストリアル・デベロップメントのチャン氏は「中国企業の大半は、先にベトナムに移動した顧客のために進出してきている」と指摘した。 (Francesco Guarascio記者)