中国、「国進民退」鮮明 民間企業初めての減益

【北京=川手伊織】2000年代以降の中国の経済成長を支えてきた民間企業の利益が2022年、初めて減少に転じた。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で景気が低迷し打撃を受けた。対する国有企業は前年比3%の増益だった。政府の景気対策の恩恵が国有企業に偏っているとみられる。国有企業が幅をきかせて民業を圧迫する「国進民退」は、将来の経済成長に影を落としかねない。

国家統計局がこのほど22年の工業経済収益報告を発表した。調査対象は主要業務の売上高が2000万元(約3億9000万円)以上の製造業や資源採掘業、発電会社などだ。

民間企業の利益総額は7.2%減少した。前年を下回るのは、確認できる1997年以降で初めてだ。国有企業は2年連続で増益を確保したが、外資企業なども含めた全体でみると4.0%減少し、3年ぶりの減益となった。

民間企業が減益となった主因は、コロナ対応の厳しい移動制限にある。上海市のロックダウン(都市封鎖)などが経済活動を阻害した。民間企業は産業構造の川下に多い。資源高で原材料が値上がりしても、内需が停滞し競争も激しいなか、コストを転嫁しにくく利益をむしばんだ。

赤字に陥る民間企業も増えている。赤字企業の割合は2022年末時点で18.5%と、年末ベースでの最高を更新した。5年前の8.8%から2倍に跳ね上がった。

一方の国有企業は、資源や原料加工など川上に多く、資源高が利益を押し上げた。国有石油大手3社の香港上場子会社の22年1〜6月期決算は原油高が追い風となり、過去最高の純利益となった。

国有企業は国家の信用力を生かして低利で資金を調達しやすいという利点もある。またゼロコロナ政策で悪化した景気を立て直すためのインフラ投資などの受注も国有大手に集中しやすい。

米ピーターソン国際経済研究所は中国トップ100社の時価総額を分析した。国の支配が50%を超す国有企業のシェアは22年末時点で44.8%となり、同10%未満と定義した民間企業(42.8%)を3年ぶりに上回った。政府によるIT(情報技術)大手への締め付けなども影を落とした。

国進民退の傾向は工業分野に限らない。代表例が、関連産業を含めて国内総生産(GDP)の3割を占めるとの試算もある不動産業だ。

政府が20〜21年に強めた不動産向け金融規制で、民間の開発大手は軒並み資金繰りが悪化した。新たなマンション建設に必要な用地の取得を見合わせる動きが広がった。例えば最大手の碧桂園は、22年の土地取得額が前年の20分の1に縮小した。

中国の証券会社、中銀証券はかつて7割あった民間不動産の販売シェアが、将来は1〜2割に下がるとみる。金融当局も国有大手が民間の開発案件を引き継ぐことを促した。

習近平(シー・ジンピン)指導部にとって、国有企業のシェアが増大すれば経済全体を管理しやすい。問題は国有企業に残る非効率さだ。製造業などの赤字比率は22年末時点で24.5%に及び、民間企業(18.5%)より高い。

国際通貨基金(IMF)は3日に発表した中国経済の年次報告で、国有企業の肥大化に懸念を示した。生産性で劣る国有企業が焼け太りすると「先進国との生産性格差がさらに広がりかねない」と指摘した。

米政府系のラジオ自由アジア(RFA)などによると、中国政府系シンクタンク、国務院発展研究センターの魏加寧研究員は22年12月の講演で「中国経済はゾンビ化のリスクに直面している」と語った。そのなかで、国有企業の肥大化や民間企業の萎縮という国進民退に警鐘を鳴らした。

人口の減少が始まり急速に少子高齢化が進むなか、国進民退による生産性の低下を放置すれば、将来の経済成長力に対する下振れ圧力が強まりかねない。

出典:日本経済新聞

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