外国為替相場は2022年10月に一時1ドル=151円90銭台にまで下落し、32年ぶりの円安水準となった。11月に130円台まで戻しているが、引き続き歴史的な円安水準が続いている。
夏場以降の急激な円安進行で、上場メーカーは期初(2022年4月)に設定した対ドル想定為替レート(以下、想定レート)を大幅に見直すケースが広がっている。
上場メーカー106社の2023年3月期下半期の想定レートは、1ドル=135円が最多の28社だった。次いで、1ドル=140円が27社で、1ドル=135円~140円が全体の半数を占めた。
106社の平均値は1ドル=135.3円。2023年3月期の期初レートは119.1円だったが、わずか半年で16.2円も上回った。調査を開始(2011年3月期決算)以来、最安値だった2023年3月期初の想定レートを大幅に更新した。
- ※本調査は、東京証券取引所に上場する主な電気機器、自動車関連、機械、精密機器メーカー(3月期決算企業)のうち、11月15日までに判明した106社の2023年3月期下半期の想定為替レートを開示資料などをもとに集計し、比較した。
想定レート 平均値は半年で16.2円アップ
上場メーカー106社の下半期の想定レートは、平均1ドル=135.3円で、2023年3月期の期初(2022年4月時点、119.1円)から16.2円の円安設定だった。
調査を開始した2011年3月期以降では、2023年3月期の期初にそれまで最安値だった2016年3月期初(想定レート1ドル=115.8円)を上回り、過去12年で最も安い水準となった。
しかし、その後も円安ドル高が急激に進行したことを受け、主要メーカー各社が下半期の想定レート見直しに動いたことがわかる。
1ドル=130円台が半数超え
下半期の想定レートは、1ドル=135円が28社(構成比26.4%)と最も多く、次いで、1ドル=140円が27社(同25.4%)、1ドル=130円が13社(同12.2%)と続く。
レンジ別では、1ドル130円台が最も多く58社(同54.7%)、 同140円台以上が38社(同35.8%)、同120円台以下が10社(同9.4%)だった。
最安値は各種モニターの生産を展開するEIZO(東証プライム)の150円(1社)で、期初1ドル=130円から下半期は150円に変更した。一方、最高値は精密モーター大手、日本電産の110円(1社)で、「期初から変更していない」として据え置き、最安値と最高値では40円の開きがあった。
レート変更 最多ゾーンは「120円→140円」
期初の想定為替レート(対象122社)は、「1ドル=120円」に設定した企業が58社と最も多く、約5割(構成比47.5%)を占めていた。
その後の想定レートの変更状況を比較すると、「120円→140円」とした企業が17社(構成比16.0%、対象106社)で最も多く、次いで「120円→135円」が14社(構成比13.2%)、「115円→135円」が8社(同7.5%)、「120円→130円」が6社(同5.6%)だった。
為替相場の円安ドル高進行を受け、期初から据え置いた1社を除き、105社が「円安シフト」に想定レートを変更した。また、期初からの下落幅の最大は26円(1社)だった。
海外展開するグローバル企業を中心に、輸出比率の高いメーカーにとっては円安ドル高の為替相場は売上増や為替差益などで有利に作用する。2023年3月期の上半期決算では急激な円安ドル高が業績押し上げ要因となり、好決算が相次いだ。為替変動に対する売上高や利益の影響を示す為替感応度を開示する企業も増え、1円の円安ドル高で日立製作所は売上収益が85億円上昇、パナソニックホールディングスは営業利益が8億円上昇するとしている。
ただ、多くのメーカーで仕入価格や原材料価格が上昇し、同時進行でコスト面への悪影響が広がっている。企業間のパワーバランスや製品によっては激しい価格競争で価格転嫁が難しく、仕入コストのみが上昇し利益率の低下に繋がるケースもある。
為替の変動局面では、恩恵を受ける企業と受けられない企業の格差が鮮明となり、業績の二極化が広がる可能性が高まる。当面、円安ドル高傾向が続くとみられるなかで、為替相場の企業業績への影響を注視する必要がある。
出典:東京商工リサーチ