[東京 31日 ロイター] – 日本政府は31日、軍事転用の防止を目的に、半導体製造装置23品目を輸出管理対象に追加すると発表した。対象の仕向け地は全地域とするが、米国が輸出規制の強化を求める中、中国を含めた一部の国向けはより手続きを厳格化する。日本メーカー10数社が影響を受ける。
西村康稔経産相は閣議後会見で、中国など「特定の国を念頭に置いた措置ではない」とした上で、「軍事転用の恐れがあるかないかについて、厳しくみていく」と語った。日本の半導体製造装置メーカーは世界的に大きなシェアを持つことから、「技術保有国として国際社会における責任を果たしていきたい」と述べた。
外為法の省令を改正し、輸出には経産大臣の事前許可が必要になる。パブリックコメントの募集を経て5月に公布、7月の施行を予定している。対象の仕向け地は全地域だが、輸出管理体制の状況などを踏まえ米国など42カ国向けは包括許可に、中国を含めその他向けは輸出契約1件ごとの個別許可とする。
中国外務省の毛寧副報道局長は記者会見で日本の規制について問われ、「経済や技術の問題を政治化、道具化、武器化するのは世界の供給網の安定を壊し、他者だけでなく自身も傷つけるだけだ」と述べた。 対象は東京エレクトロンが手掛けるエッチング装置やニコンが手掛ける露光装置など6分類23品目で、回路線幅14ナノ前後よりも微細な先端半導体を製造できる高性能装置が規制される。西村経産相は「全体としては国内企業への影響は限定的」としたが、経産省によると、10数社が影響を受ける。
東京エレクトロンはロイターの取材に対し、「発表された規制内容について確認の上、適切に対応する」とコメント。ニコンは「引き続き決められたルールを順守し、その中で最大限の成果をあげられるように努力する」と回答した。ニコンは、パネル向けを含め露光装置事業の売り上げの4割を中国向けが占める。
丸紅中国の鈴木貴元・経済調査総監は、製造装置メーカーにとって日本国内に有望な半導体市場がないことが弱みと指摘。海外輸出の規制強化は「日本企業の市場開拓をむしばみ、規制という側面から確実に競争力を低下させる」と話す。
米国は昨年10月、中国が軍事転用する恐れがあるとして半導体の輸出規制を強化。先端半導体を作るのに必要な技術や製造装置の輸出に広く網をかけた。製造装置メーカー最大手の米アプライドマテリアルなどが影響を受ける中、米国は有力な製造装置メーカーを抱える日本とオランダにも足並みをそろえるよう求めていた。
3カ国は今年1月、先端半導体の製造装置輸出を規制することで合意。オランダは3月上旬、国家安全保障の観点から先端的な半導体技術の新たな輸出規制を計画していると表明したが、日本は「今般のオランダの動向も踏まえて適切な対応を検討していきたい」(西村経産相)とするにとどめていた。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の和田木哲哉シニアアナリストは、経産省が公表した規制について「米国とひょうそくを合わせた内容になっている」と分析する。その上で、「業界にとっては米中の間で何らかの妥協が成立すればビジネスの正常化が期待できるし、今の米中関係が続くと中期的には中国以外の地域で需要増が期待できる」と話す。
(浦中美穂、久保信博 取材協力:竹本能文、佐古田麻優 編集:宮崎亜巳)
出典:日本経済新聞