タクシー業の倒産が過去10年で最多、コロナ禍が促す業界変革

“景気を映す鏡”と言われるタクシー業界。
東京商工リサーチ(TSR)の調査では、2022年に倒産したタクシー事業者(ハイヤー含む)は過去10年間で最多を記録した。
全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)によると、2022年12月の会員の営業収入は全国平均でコロナ禍前の2019年に比べ18%減少した。まだコロナ禍の影響が色濃く残る。それでも、行動制限の解除やインバウンド需要の復調で、回復ピッチは早まっている。
大手タクシー会社がけん引する配車アプリの普及も、より手軽な交通手段にしている。
だが、コロナ禍で多くのドライバーが業界を去り、人手不足は深刻だ。

大幅に増加したタクシー業の倒産

 コロナ禍の行動制限の際には、飲食店の休業や時短営業が相次ぎ、かき入れ時の深夜帯の需要が消失し、業界は大きな打撃を受けた。歩合制という業界特有の給料形態が仇となり、事業者によっては離職者が相次いだ。
都内のタクシー会社の担当者は、「2020年4月は半月ほど完全休業した。総従業員の1割強が退職した」と当時を振り返る。
2022年のタクシー(ハイヤー含む)業の倒産(負債1,000万円以上)は、前年の2倍超の29件となった。そのうち、約9割は従業員50人未満の中小・零細規模だった。利用客の減少とコロナ支援が薄れ、息切れした企業が相次いだ。
ただ、客足は2022年秋から回復傾向にある。行動制限の解除でビジネスマンの利用が増え、深夜帯の利用客も戻りつつある。11月に東京23区は初乗り運賃が420円から500円に改定されたが、利用者の乗り控えはなく影響は限定的という。
とはいえ、「値上げ前は最寄り駅から自宅まで利用していた人が、少し手前で降車するケースもある。節約志向の日本人らしい」と業界関係者は苦笑を浮かべる。
都内の別のタクシー会社は、「タクシー1台の2020年12月の営業日収は平均で約4万円だった。2021年は約5万円、2022年は約6万円まで復調している。年末年始はてんてこ舞いだった」と安どの表情を浮かべる。
全国旅行支援や各国の出国規制緩和によるインバウンド復調も追い風になっている。2022年の訪日外客数(日本政府観光局)は前年比約16倍の383万1,900人に回復した。業界関係者は、「母国より日本は乗車料金が安いと話す外国人は多く、空港から宿泊先までの長距離利用もしばしば」と笑みをこぼす。

タクシー

広がる配車アプリ、感染に配慮した要望も

 配車アプリの浸透で、タクシー利用も手軽になった。高齢者は電話予約が多いが、若年・中年層ではアプリ予約が広がっているようだ。
大手タクシー会社の日本交通(株)(TSR企業コード:291142885)によると、2022年の予約のうち、アプリ経由が8割以上に達した。
予約したタクシーの運転経路がリアルタイムで把握できる事も安心に繋がる。車種が選択しやすくなったことも満足感を高める要素の一つだ。「身体が不自由な人からスライドドアや車いすに対応した車種が選ばれる。感染症対策で空気清浄機を備えた車両の予約も多い」(業界関係者)。
また、電子決済も浸透してきた。全タク連の「決済用端末機導入状況」によると、2022年3月末でキャッシュレス決済対応車両は非対応車両の約10倍にあたる13万3,432台だった。調査に回答した車両では、キャッシュレス対応率は90.8%、クレジットカード導入率は80.3%を占める。
日本交通の都内タクシーでは、キャッシュレス利用率が約7割にのぼる。衛生的に現金支払いを避ける人も増え、なかには「小銭やおつりの受取を拒む人もいる」(業界関係者)という。コロナ禍の感染防止対策は、金銭受け渡しにも影響しているようだ。

深刻なドライバー不足

 需要は活気を取り戻すが、その一方で供給が追い付かないケースも出ている。都内のタクシー会社は「ドライバー不足で今も総台数の1割が遊休している」と頭を抱える。「平日の朝の雨天時に利用客の予約に対応できず、ニーズの約3割を取りこぼしている」と表情を曇らせる。
国土交通省によると、2020年度の全国法人タクシー事業者数は前年度比152社減の5,828社、法人タクシー車両数は同4,533台減の17万7,367台。リーマン・ショック後の2009年以降、事業者も車両も減少している。
雨降りにタクシーは来ない――。言い得て妙の格言だが、状況は深刻だ。
全タク連によると、2021年度の法人タクシーの全国乗務員数は前年度比6.8%減の24万1,727人で、50歳以上が20万7,473人と85.8%を占める。業界関係者は「彼らの退職で空いた穴を埋めないと、慢性的な供給不足に陥りかねない」と漏らす。

 毎年多くの新卒者を採用する日本交通は、2022年4月に新たな部署を新設し、「HRM」(Human Resource Management)プロジェクトを推進する。退職抑制と同時に中長期的にタクシー業界で活躍できる人材の育成を図る。
東京23区や武蔵野・三鷹地区が中心の葵交通(株)(TSR企業コード:295054298)は、経験豊富な乗務員がマンツーマンで指導するほか、研修制度も充実させている。また、未経験者には、乗務開始後の6カ月間は30万円の最低給与を保障し、その後の給料取り分は約6割に設定。ドライバーが将来を描ける環境作りを手助けしている。
タクシーは、労働集約型産業で人員の確保なしでは成り立たない。一方、配車アプリの普及は利便性と同時に、多様な利用者ニーズに応えるきめ細かい体制の整備も求められる。
タクシー業界は、労働集約型から様々な効率型産業への転換期を迎えている。

タクシー

‌配車アプリが新たなニーズを取り込む(写真:日本交通提供)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年2月3日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

出典:東京商工リサーチ

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