~ 2023年1-5月「人手不足」関連倒産の状況 ~
人手不足の影響が広がっている。2023年5月の「人手不足」関連倒産は12件(前年同月比100.0%増)で、前年同月(6件)の2倍に急増した。5月は、「求人難」が7件(前年同月4件)、「人件費高騰」が3件(同ゼロ)、「従業員退職」が2件(同2件)だった。
1-5月累計は56件(前年同期比143.4%増)に達し、1-5月期では2020年同期(51件)以来、3年ぶりの50件台となった。最多は、「求人難」の22件(前年同期比57.1%増)だった。また、前年同期は発生がなかった「人件費高騰」が21件と急増した。賃上げ機運が高まるなか、もともとの低収益に、人件費の上昇がさらに収益悪化を招く悪循環が深刻な状況になっている。
5月の産業別では、最多が建設業の6件(前年同月ゼロ)。以下、運輸業4件(前年同月比100.0%増)、製造業とサービス業が各1件だった。
細分類では、一般貨物自動車運送業が4件、とび工事業2件、木造建築工事業、土工・コンクリート工事業、内装工事業、一般電気工事業、ロボット製造業、普通洗濯業が各1件の順で、一般貨物自動車運送業の人手不足が際立つ。
経済活動が活発になるにつれて、「人手不足」が顕在化している。収益性が低く、資金余力が乏しい中小企業では、なかなか賃上げを実施することは難しい。そのため、人材流出が避けられず、業績回復が遅れることで「人手不足」関連倒産の増加に拍車をかける可能性が高まっている。
※本調査は、2023年1-5月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)
「人手不足」倒産56件、前年同期の2.4倍に急増
2023年5月の「人手不足」関連倒産は、12件(前年同月比100.0%増、前年同月6件)発生した。内訳は、「求人難」が7件(前年同月4件)、前年同月は発生がなかった「人件費高騰」が3件、「従業員退職」が2件(同2件)だった。
また、2023年1-5月の「人手不足」関連倒産は累計56件(前年同期比143.4%増)で、前年同期の2.4倍と大幅に増加した。1-5月期では調査開始の2013年以降、深刻な人手不足が広がった2019年同期の65件に次いで、2番目に多かった。
コロナ禍の2021年同期は26件、2022年同期は23件と、経済活動の停滞で低水準だった。だが、経済活動が本格的に再開しても、流出した働き手が戻らず人手不足が顕著となった。特に、前年同期に発生がなかった「人件費高騰」が21件発生した。人手不足は受注機会の喪失につながり、業績回復が遅れる負のスパイラルを引き起こすが、人件費上昇が収益悪化を直撃する構図が鮮明になってきた。
【要因別】56件のうち、前年同期ゼロの「人件費高騰」が21件に増加
1-5月の要因別件数では、最多が「求人難」の22件(前年同期比57.1%増、構成比39.2%)で、2年連続で前年同期を上回り、2020年(25件)以来、3年ぶりに20件台に乗せた。
次いで、「人件費高騰」が21件(前年同期ゼロ、構成比37.5%)で、調査を開始した2013年以降で、初めて20件台に乗せた。また、「従業員退職」が13件(前年同期比44.4%増)で、4年ぶりに前年同期を上回り、2年ぶりに2ケタに乗せた。
コロナ禍の急激な市場縮小で、上場企業でも早期退職を募集するなど人余りが顕著となった。だが、経済活動が本格的な再開に向けて動き出すと、コロナ禍で流出した人材が戻らず、人手不足が一気に顕在化した。
新規採用が進まない「求人難」に加え、人材確保と定着率アップのための人件費上昇が資金繰り悪化を招き、「人件費高騰」の増加ぶりが際立っている。
【産業別】運輸業が前年同期の5倍に増加
1-5月の産業別件数では、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、卸売業、金融・保険業、不動産業を除く6産業で前年同期を上回った。
最多は、運輸業(前年同期比400.0%増)とサービス業他(同25.0%増)の各15件。運輸業は人手不足が顕著で、4年ぶりに前年同期を上回り、前年同期の5倍に増加した。サービス業他は2年連続で前年同期を上回り、医療,福祉事業(7件)がほぼ半数を占めた。
次いで、建設業12件(前年同期比200.0%増)が、4年ぶりに前年同期を上回った。産業別の上位は、もともと人手不足が顕在化していた産業となっている。
このほか、製造業6件(同500.0%増)が2年ぶり、小売業2件(前年同期ゼロ)が4年ぶり、情報通信業4件(前年同期比300.0%増)が5年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
一方、不動産業が2年連続、農・林・漁・鉱業が3年連続、金融・保険業が調査を開始した2013年から、それぞれ発生していない。
業種別件数では、一般貨物自動車運送業11件(前年同期3件)、土木工事業と受託開発ソフトウェア業が各3件(同1件)。2件で、木造建築工事業、とび工事業、豆腐・油揚製造業、各種食料品小売業(同ゼロ)、訪問介護事業(同1件)などが、前年同期を上回った。
【形態別】消滅型の破産が9割超
1-5月の形態別件数では、消滅型の「破産」が54件(前年同期比134.7%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。構成比は96.4%(前年同期100.0%)と大半を占めた。
一方、再建型の「民事再生法」が3年連続、「会社更生法」は調査を開始した2013年以降、それぞれ発生がなかった。
業績が厳しい企業では、従業員の新たな採用だけでなく、従業員をつなぎとめるために福利厚生の充実や待遇面の向上を図るには資金的に限界がある。そのため、人手不足で受注機会を逃し、ますます業績回復が遅れ、事業継続を断念して破産を選択するケースが多い。
【負債額別】1億円未満が5割
1-5月の負債額別件数では、「1億円未満」が30件(前年同期比76.4%増)で、全体の53.5%を占めた。
1億円未満では、「1千万円以上5千万円未満」が16件(同60.0%増)で3年ぶり、「5千万円以上1億円未満」が14件(同100.0%増)で2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
このほか、「1億円以上5億円未満」が21件(同250.0%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
また、「5億円以上10億円未満」が4件で3年ぶり、「10億円以上」が1件で2年ぶりに、それぞれ発生した。
【地区別】9地区のうち、北陸、中国、四国を除く6地区で増加
1-5月の地区別件数では、9地区のうち、6地区で前年同期を上回った。
関東26件(前年同期比188.8%増)が2年連続、北海道6件(同200.0%増)が2年ぶり、東北4件(同33.3%増)と近畿10件(同900.0%増)が3年ぶり、中部2件(同100.0%増)と九州7件(同250.0%増)が4年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
一方、中国1件(前年同期3件)が2年ぶり、四国ゼロ(同2件)が3年ぶりに、それぞれ前年同期を下回った。北陸は2年連続で発生がなかった。