2022年(1-12月)の「農業」の倒産は75件(前年42件)で、前年の1.8倍(78.5%増)に急増したことがわかった。2003年以降の20年間では、2020年(80件)に次ぐ2番目の高水準だった。
米作、野菜作、果樹作などを含む耕種農業が43件(前年比53.5%増)と最多で、養鶏や養豚、肉用牛生産などの畜産農業は27件(同170.0%増)だった。
畜産農業は、円安やロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料高や穀物価格の上昇で飼料高が加速した。さらに、伝染病発生による家畜の殺処分を発端に、肉用牛・養豚業の大手の倒産なども重なって急増し、全体を押し上げた。
負債総額も894億3,600万円(前年比1,888.7%増)で、前年の約20倍増と大幅に膨らんだ。負債100億円以上の2件を含む負債10億円以上の倒産が15件(前年1件)発生、大型倒産が増えたことが大きな要因だ。
負債額トップは、「神明牧場」で知られる神明畜産(株)(東京都、負債294億5,600万円)だった。このほか、会社更生手続開始を受けた鶏卵流通大手のイセ食品(株)(東京都、負債278億4,700万円)グループの養鶏業者の連鎖倒産、養豚専業では全国有数の規模を誇った(株)長島ファーム(鹿児島県、負債32億8,600万円)など、畜産業界のリーディングカンパニーの経営破綻が相次いだ。
※ 本調査は、 2022年(1-12月、負債1,000万円以上)の倒産から、日本産業分類の「農業」(「耕種農業」「畜産農業」「農業サービス業」「園芸サービス業」)を抽出し、分析した。 (注)イセ食品(株)は、食品販売(鶏卵等)で、当集計から除く。
件数・負債総額ともに20年間で2番目の高水準
「農業」の倒産のピークは、2003年以降の20年間では2020年の80件だった。後継者難など人手不足の問題を抱えた小規模事業者の倒産が中心だった。その後、2021年はコロナ関連対応の政策支援などもあって42件に大幅に減少したが、2022年は再び増勢に転じ75件(前年比78.5%増)と、20年間で2番目の高水準に達した。
20年間で負債総額の最大は、2011年の4,569億3,500万円が突出する。これは和牛預託商法の(株)安愚楽牧場(負債4,330億8,300万円、2011年8月民事再生→破産)が1社で全体の94.7%を占めたため。2011年を除くとこれまで年間の負債総額は100億円前後で推移していたが、2022年は894億3,600万円と、前年(44億9,700万円)の約20倍に急増した。
件数の増加に加え、各業界の大手企業の倒産が相次いだことで、負債総額を押し上げた。
【業種別】畜産農業が約3倍に増加
業種別(小分類)では、最多が「耕種農業」の43件(前年比53.5%増)。このうち、最多は野菜作農業の29件で、果樹作農業が7件、米作農業と花き作農業が各3件だった。
次いで、「畜産農業」の27件(同170.0%増)で、前年の10件から2.7倍に増加した。内訳は、養鶏業が最多の16件、次いで肉用牛生産業、養豚業が各3件。飼料や温度管理のための燃料費の高騰が経営を圧迫したほか、伝染病の広がりによるダメージが直撃したケースが多い。
【負債額別】負債10億円以上の大型倒産が大幅増
負債額別の最多は「1千万円以上5千万円未満」の35件(前年比45.8%増)で、約半数を占めた。次いで「10億円以上」の大型倒産が15件(同1,400.0%増)、「1億円以上5億円未満」が13件(同44.4%増)、「5千万円以上1億円未満」が10件(同42.8%増)と続く。
負債10億円以上の大型倒産15件のうち、3月に会社更生法を申し立てられ、更生手続き中のイセ食品(株)のグループが9件。豚熱の発生による殺処分が追い打ちとなった豚・牛畜産の神明畜産(株)とその関連会社が2件だった。
【資本金別】1,000万円未満が約8割
資本金別の最多は「1百万円以上5百万円未満」の26件(前年比30.0%増)で、次いで「5百万円以上1千万未満」の16件(同700.0%増)、「個人企業他」の14件(同16.6%増)と続く。
個人企業を含めた資本金1,000万円未満は58件(同56.7%増)で、約8割(77.3%)を小規模事業者が占めている。
【形態別】再建型倒産が大幅増
形態別では「破産」が最多の55件(前年比44.7%増)で全体の7割(73.3%)を占めた。このほか、特別清算の4件(前年比33.3%増)を含む消滅型倒産が59件(同43.9%増)にのぼり、約8割(78.6%)を占めた。
一方、再建型倒産は、前年は1件にとどまったが、2022年は会社更生法が2件(前年ゼロ)、民事再生法が13件(前年比1,200%増)の合計15件に達し、大幅に増加した。
再建型倒産は大手企業やそのグループ会社などが中心で、債務軽減とスポンサー支援を得て再生に取り組んでいる。
【地区・都道府県別】全国8地区で増加、最多は茨城県の7件
地区別では、関東が最多の16件(前年比100.0%増)で、前年の2倍に増加した。次いで、近畿(同160.0%増)と九州(同44.4%増)が各13件、中部が11件(同22.2%増)、東北が9件(同350.0%増)と続く。
9地区のうち、北陸(3→2件)を除く8地区で前年を上回った。
都道府県別では、最多が茨城県の7件で、このうちイセ食品グループの養鶏業者が4社だった。
次いで北海道が5件、三重県と奈良県が4件、宮城県、愛知県、滋賀県、京都府、長崎県、宮崎県の6府県で3件発生した。都市圏に偏らず、農業が盛んな地域を中心に全国で発生している点が特徴となっている。
「農業」の倒産増の背景には、もともと人手不足や後継者問題に苦慮していたところに、長引くコロナ禍での需要減少がある。さらに、2022年は深刻な燃料高・飼料高で生産コストが急上昇したことも大きかった。こうした3重苦の直撃に加え、畜産業では豚コレラなどの伝染病発生による想定外のリスクも表面化した。
さらに、2022年後半以降、養鶏業では全国的に鳥インフルエンザが猛威を振るっている。今シーズンはすでに全国で過去最悪の1,000万羽超の殺処分が実施され、鶏卵価格の上昇を引き起こしている。鳥インフルエンザが発生すると、殺処分だけでなく近隣の農場なども出荷制限の対象となり、地域の養鶏事業者への影響が甚大だ。損害補填の支援策など、生産者保護に向けた行政側の対応も急がれる。
農業分野は価格転嫁が難しく、厳しい事業環境が続いている。コストアップに対応できない資金繰り破たんや、先行きの見通しが立たない小規模事業者の「あきらめ型」倒産や廃業も懸念され、2023年も引き続き「農業」の倒産は増勢をたどる可能性が高い。
出典:東京商工リサーチ
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