2020年の上場企業の「不適切会計や経理の開示調査」結果

はじめに

2020年に不適切な会計・経理(以下、不適切会計)を開示した上場企業は58社、総数は60件(同17.1%減・17.8%減)だった。2008年以降では19年が過去最多の70社・73件、20年はそれぞれ下回りました。ただ20年も60件前後の高めの状態が続いています。

2020年春の新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令で、業績や財務内容などの数字が適正かチェックする公認会計士の多くが在宅勤務となったところから監査業務などに遅れが生じました。2020年の件数は減少するも、不適切会計などのチェックに向けた業務フローの見直しも必要になってきそうです

不適切会計の内容

2020年に不適切な会計を開示した58社のうち、子会社の粉飾と経理や会計のミスが24件と共に最多でした。産業別では製造業が23社で最多、次いで卸売業が10社となっています。上場企業の相次ぐ不適切会計の発覚から健全なコンプライアンス意識の徹底が求められています。金融庁や東京証券取引所はガバナンスのさらなる向上に向けた指針整備を進めていくことで企業も確実に履行できる体制作りが必要としています。

この調査は、自社開示だけでなく、金融庁や東京証券取引所などの公表資料に基づきます。上場企業や有価証券報告書などの提出企業を対象にした「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業もしくは今後影響の出る可能性のある企業を開示して集計しています。

2020年の開示企業は58社

2020年の開示企業は58社・60件で五洋インテックス株式会社とスカパーJSATホールディングス株式会社は1社で2件開示しています。上場企業は国内市場の成熟でメーカーを中心に売上の拡大を求めて海外市場への展開を強めています。ただ拡大する営業網にグループ会社のガバナンスが追いつかずに、子会社や関連会社が原因の不適切な会計の開示に追い込まれてしまうことが少なくありません。

理研ビタミン株式会社は2020年7月に中国連結子会社でエビの加工販売取引や棚卸資産での不適切会計処理について開示しています。過年度決算短信などを訂正するも、訂正後の連結財務諸表について適切な監査証拠を入手できなかったところから監査法人が監査意見を表明しませんでした。

また小倉クラッチ株式会社は中国の子会社2社で2014年から過大在庫の計上や米国子会社での不正送金関連などについて特別調査委員会を設置しました。そこで2020年12月に委員会の調査結果を踏まえて、決算を2016年3月期まで遡って修正しました。

内容別では粉飾と会計の処理ミスが最多

内容別では架空売上の計上や水増し発注などの粉飾が24件、経理上のミスも24件と同数でした。

第一商品株式会社は長年にわたっての歴代の社長らが回収不能となっていた貸付金の回収偽装・貸倒引当金の戻入益の過大計上・広告宣伝費の架空計上などの不適切会計を行っていました。7月に東京証券取引所は第一商品に対しジャスダック特設注意市場銘柄への指定及び2000万円の上場違約金を徴求しました。

あとは子会社・関係会社の役員・従業員などの着服や横領なども12件ありました。会社資金の私的な流用や商品の不正販売などの個人の不祥事にも監査法人は厳格な審査を行っています。

子会社や関連会社関連がトップ

発生している当事者間では子会社・関連会社が最多で23件を占めています。子会社による売上原価の過少計上や架空取引などの見せかけだけの売り上げの増加や利益の捻出のための不正経理が目立ちます。

次いで自社が22社で続きました。会計処理の謝りや事業部門での売上の前倒しの計上などがありました。自社と子会社・関連会社で全体の8割近くを占めたことになります。

東証1部企業が半数以上

市場別では東証1部が33社で全体の過半数を占めました。ついでジャスダックが10社。東証2部が9社と続きます。13年は新興市場が目立つも15年くらいからは国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立っています。

製造業が最も多く

業種別では製造業が23社で最も多くなりました。製造業は国内外の子会社や関連会社による製造や販売管理の体制不備によるところが大きくなっています。卸売業では連結キャッシュフローの記載の誤りや子会社の土地の時価の評価額が適正に取り崩されたなどの誤りが目立っています。

その他にも

2020年の不適切会計の開示は58社と60件で高水準が続いています。株式会社ジャパンディスプレイは2020年4月に不適切な会計処理に関する第三者委員会の調査報告書および過年度の決算短信の訂正を開示しています。経理責任者の指示で過大在庫の計上・費用の資産化・費用計上の先送りなどの不適切な会計処理が行われていたことが分かってきました。また常務執行役員などの指示によって収益認識の要件を満たさない売上計上などの不適切な会計が行われていたことも判明。この不適切処理の一部は2014年3月の新規上場前から行われていたとのことです。

東京証券取引所は市場に対する株主および投資者の信頼を破壊したということで2020年7月10日、ジャパンディスプレイに対し改善報告書と上場違約金6240万円を徴求しました。また不適切会計の開示による株価下落で損害を受けたとして大株主からも訴訟を起こされています。

緊急事態宣言で監査法人の仕事の質にも変化

監査法人は緊急事態宣言以降にリモートによる監査が加速してきています。ただリモート監査になったことで不正の機会を増やす懸念も出てきています。コロナ禍で業種によっては経営環境が一段と悪化している企業も多く、年度末の2021年3月決算では特に不適切会計に気を配る必要があるとの声も囁かれてきています。

近年は経済のグローバル化で海外子会社との取引に伴う不適切会計も増加してきています。また現場や状況を無視した売上目標の達成へのプレッシャーから不正会計に走る担当者も後を絶ちません。コーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識改善が掛け声倒れに終わらないためにも、不適切会計を防ぐ風通しの良い組織づくりをすることが求められています。

参考資料・出典
東京商工リサーチ:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210119_01.html

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