~ 2022年「アパレル小売業者」業績調査 ~
国内のアパレル小売業者7,886社の2022年決算(1-12月期)は、売上高が6兆309億4,500万円(前年比3.8%増)、最終利益が1,849億3,400万円(同367.5%増)で、増収・増益だった。
コロナ禍の外出自粛や消費低迷に見舞われた2021年は大幅な減収・減益だったが、2022年は回復基調に転じた。一方、業績回復は、ユニクロやしまむらなどの大手と、中小企業で格差が広がっている。
アパレル小売業は、コロナ禍の外出自粛による需要減退、臨時休業や営業時間短縮、各国のロックダウンによるサプライチェーンの分断などで打撃を受け、2021年は売上高・最終利益ともにコロナ前から大幅に悪化した。
特に、スーツや呉服、フォーマルウェアなどは在宅勤務の広がりに加え、式典・イベント自粛で大きな影響を受けた。2022年もコロナ禍の影響は続いたが、営業が平常に戻ったことや大手ファストファッション業者の業績回復にけん引され増収・増益となった。2023年はアフターコロナの流れが加速し、人流は急回復している。また、入国制限や水際対策の緩和で訪日外国人数が大幅に増加し、アパレル需要はさらに回復への期待が高まっている。
ただ、国内アパレル市場はコロナ前から頭打ちで、商品の低価格化や競合が問題になっていた。さらに原材料費・物流費などのコスト上昇や経済活動の再開に伴う人手不足など、新たな課題も浮上している。
価格面で大手に太刀打ちできない中小・零細企業は、実店舗からEC(ネット通販など)販売への参入、ブランディングの工夫などの差別化が重要だ。コロナ禍で消費者は価格やブランド、品質の“選別”志向が強まっており、購買意欲をいかに刺激するかが問われている。
※国内のアパレル小売業者は、中分類57「織物・衣服・身の回り品小売業」(細分類5712「寝具小売業」を除く)を対象に集計した。単体決算で最新期を2022年1月期-12月期とし、4期連続で比較可能な7,886社(最終利益は最新期3,245社)を対象に抽出、分析した。
2022年は売上・利益ともに回復、一方で中小・零細企業は鈍い回復
7,886社の2022年決算の売上高合計は、6兆309億4,500万円(前年比3.8%増)だった。前年は売上高が6兆円を下回ったが、再び6兆円台に回復した。ただ、コロナ前の2019年(6兆7,130億1,300万円)と比較すると6,820億6,800万円(10.1%減)の減収で、コロナ前には戻っていない。
一方で、2022年の最終利益は合計1,849億3,400万円(前年比367.5%増)で、2019年(1,914億8,000万円)との比較では3.4%減まで回復した。
売上高・最終利益の回復は、ユニクロとしまむらの大手2社が牽引した。この2社を除いた売上高・最終利益の合計は、最新期の売上高が4兆6,085億5,300万円(前年比4.6%増)、最終利益は514億3,900万円(前年は764億8,000万円の赤字)と黒字に転じた。ただ、2019年との比較では売上高は12.6%減、最終利益は51.8%減にとどまる。最終利益は2019年の半分以下で、好調な一部大手と中小・零細事業者の業績格差が鮮明になった。
売上高伸長率別 コロナ前の2019年と比べ7割超が減収
2022年の売上高を前年と比較すると、増収・同水準の企業は5,090社(構成比64.7%)だった。一方、コロナ前の2019年と2022年の売上高を比較すると、増収・同水準の企業は1,845社(同23.4%)にとどまり、減収企業は6,024社(同76.5%)と7割超に達した。このうち、10%超減収した企業は6割超(同65.4%)を占めている。
大手はサプライチェーン見直しや海外市場の拡大で売上高を伸ばす一方、資金余力が乏しい中小・零細企業は抜本的な経営見直しが難しく、業績回復が遅れている。限られた資本のなかで、差別化を図れるかが業績回復のカギを握っている。
損益別 赤字企業が2年連続30%台
最終損益別では、2022年の黒字企業率は68.2%で、前年の66.6%より1.6ポイント改善した。一方、赤字企業率は31.8%(前年33.3%)だった。
黒字企業率が赤字企業率を上回るが、売上高が落ち込むなか、コロナ関連の給付金、助成金などで黒字計上した企業もあり、実態はもう少し厳しくみるべきだろう。
最終利益 増益企業率が減益企業率を上回る
最新期の増益企業率は34.7%で、減益企業率の32.6%を2.1ポイント上回った。
コロナ禍の2020年は、外出自粛による売上急減の影響が大きく、減益企業率は51.1%と半数を超えた。コロナ禍3年目の2022年は、わずかながら増益企業率が減益企業率を上回り、企業の収益強化が実った格好となった。
従業員数別 10人未満が8割超
従業員数別では、5人未満が5,503社(構成比69.7%)で最多だった。5~10人未満が1,197社(同15.1%)で、10人未満(不明除く)が6,700社(同84.9%)と小・零細規模の事業者が8割超を占めた。
コロナ禍の影響を受け、アパレル業界では実店舗販売からEC販売への移行が加速した。大手はコロナ禍前からEC市場に参入していた企業が多く、EC利用促進のためのさらなる開発や改修を推進している。一方で、小・零細規模の事業者は、資金制約や人材・知識不足から未参入も多く、消費者への訴求力に大きく差がついた。
出典:東京商工リサーチ