旧日産系マレリ再建に「自動車部品企業の悲哀」、親会社に翻弄された末路

マレリの再建計画が判明も業績復活は前途多難

自動車部品メーカーの大手の「マレリホールディングス(マレリ)」が、業績悪化によって私的整理の一つである事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)制度を申請してから3カ月が経過した。親会社である米投資ファンドのKKRを支援企業として、6月中の再建計画同意を目指しているが、その道のりは遠い。

マレリは、日産自動車系列のサプライヤーである旧カルソニックカンセイが、2019年に欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の部品部門だったマニエッティ・マレリを買収統合して誕生した。

鳴り物入りのメガサプライヤーとしてスタートを切ったが、コロナ禍や半導体不足による完成車メーカー(OEM)の減産が続く中で、合併によるスケールメリットを生かせず、むしろ売上高1兆円を超える規模が重荷となってのしかかった。

21年12月期まで4期連続の赤字となり、約1兆1000億円規模の債権額を抱えて3月1日に事業再生ADR制度の利用を申請した。それから3カ月をかけて支援企業の選定に向けた入札を実施。手を挙げた外資もあったが交渉が難航し、結果的に親会社のKKRを支援企業とする再建案が5月末の債権者会議で説明された。

それによると、KKRが6億5000万ドル(約870億円)の第三者割当増資を引き受ける方針を提示。さらに、債権額のカット率を約42%とし、金額にして約4500億円の債権放棄を求めることを金融機関に示したという。

KKRは、マレリのスポンサーになることについて「自動車産業を取り巻く環境は厳しいが、世界的なメガサプライヤーとして躍進できるよう取り組むマレリを引き続き支援する」とコメントしている。

だが、元々リスクを伴うマレリ買収を主導したのはKKR自身だ。それに対して金融機関から不満もくすぶっている。OEMの生産体制の完全復活も見通せない中、再建は一筋縄ではいかないだろう。

コロナ禍や半導体不足での自動車減産が追い打ち

近年、曙ブレーキ工業やサンデンといった自動車サプライヤーで事業再生ADR申請の事例が相次いでいる。「100年に一度の自動車大変革」といわれる時代にあって、部品企業は非常に厳しい立場に立たされているのだ。

マレリの場合も同様だ。世界の自動車部品業界は、大きな構造改革により、生き残りへ向けた厳しい時代を迎えており、ティア2、ティア3だけでなくメガサプライヤーも含めて、試練の局面に立たされている。

元々、旧カルソニックカンセイは日産の“部品御三家”の一つに数えられた主力サプライヤーであったし、日産のカルロス・ゴーン元会長も一連の“系列切り”の一方で、逆に2005年に日産が出資を41.9%に引き上げて連結子会社としたほどの企業だった。

しかし、日産の業績が陰りを見せ始めていた17年に、同社は旧カルソニックカンセイの持ち分をKKRに売却してしまう。さらにKKR主導でFCAの部品部門を約7200億円で19年に買収・統合して「マレリ」に社名変更した経緯がある。

当時FCAは、仏のルノーのライバルである仏グループPSAとの統合を進める過程で、部品部門の売却意向があった。カルソニックカンセイとの統合は渡りに船だったのだろう。なお、FCAとPSAの方は、21年1月に統合を完了させ「ステランティス」が誕生している。

親会社のKKRは、旧マレリ統合によるスケールメリットを狙ったのだろうが、むしろ買収費用が巨額の債務となって負担になり、そこにコロナ禍や半導体不足などの世界的な自動車減産が追い打ちをかけた。主要取引先である日産が業績不振で、生産台数が減少したことも大きい。

また、旧マレリとの統合後も、ライティング、エレクトロニクス、パワートレインなどの製品群が加わったものの、同社の高コスト体質からの脱却や大規模リストラが遅れているといった問題点が指摘されている。

日産系列最大のサプライヤーかつての栄光むなしく

旧カルソニックカンセイの歴史をたどると、1938年創業の日本ラジエーター製造(日ラジ。その後、カルソニックに社名変更)と、56年創業の関東精器(その後カンセイに社名変更)が2000年に対等合併して誕生した。カルソニックはラジエーターから空調システムや熱交換器、コンプレッサーなどを、カンセイは計器メーターなどの部品を手掛ける企業であり、共に日産の有力部品サプライヤーとして成長してきた。

筆者は、かつて自動車部品を担当していた頃に日ラジを取材したことがある。当時の日産宝会(日産と取引の部品企業群)のリーダー役が、日産の専務から日ラジに転じた太田寿吉社長(当時)だった。太田氏は、石原俊日産元社長と日産の同期入社でもある。

宝会の加盟部品各社が日産の購買担当を「東銀座様(当時の日産の本社所在地)」とあがめる中で、日ラジは他社に先駆けて米国進出も果たし、米ゼネラル・モーターズとの取引を広げて同社と合弁工場を展開するほどだった。

その後、業績破綻により日産が仏ルノーの傘下に入る中、2000年にはカルソニックとカンセイの合併統合が行われた。日産がゴーン体制に移行し“系列解体”が進められたが、カルソニックカンセイは重要なサプライヤーとして解体の対象外となり、05年にはむしろ日産が出資比率を引き上げて連結子会社としたことは、先述した通りだ。

3月1日のADR申請から3カ月、元の親会社の日産からの支援を期待する声もあったが、日産自体が経営再建の過程にあってそれどころではない。KKRはインド財閥で傘下に自動車部品を抱えるサンバルダナ・マザーソン・グループと共同で支援企業とする意向が報じられていたが、マザーソンは条件が合わずに撤退してしまった。結果的に支援企業がKKRだけとなってしまったのだ。

5月末の債権者会議でのKKR主導の再建案には、みずほ銀行などの金融機関から不満も漏れており、OEMの減産も続いているため先行きは不透明だ。

マレリのケースは、過去日産系で最有力だったサプライヤーが独立系サプライヤーの道を歩まざるを得なかった流れに翻弄(ほんろう)された悲哀を象徴しているが、一方でサプライヤーの生き残り方に一石を投じるものでもある。

世界を見ると、ボッシュやコンチネンタルなど独メガサプライヤーが強さを見せており、日本でもデンソーなどメガサプライヤーとして世界で勝負できる部品企業があるが、マレリは対照的な結果となってしまった。

さらに、ティア1に対し、ティア2~ティア3の部品企業群は日本国内でも9割、6000社を数える。「100年に一度の自動車大変革時代」におけるCASE新技術対応は、部品企業の生き残りへ大きなテーマを与えてきている。

昨今のコロナ禍、半導体不足、アジア部品供給不足による世界的な自動車減産が続き、サプライチェーンの重要性が増す。マレリを奇貨として部品企業の生きざまが問われている。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)

出典:ダイヤモンドオンライン

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