【ワシントン時事】米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」参加国は、「サプライチェーン(供給網)」「貿易」「クリーン経済」「公正な経済」の4分野で正式交渉を始めることを決めた。 米シンクタンク「ブルッキングス研究所」東アジア政策研究所長のミレヤ・ソリス氏と、自由貿易を提唱する米最大規模の経済団体「全米外国貿易評議会(NFTC)」のジェイク・コルビン会長に課題や展望を聞いた。
◇新経済秩序、日本が主導を ミレヤ・ソリス米ブルッキングス研究所東アジア政策研究所長
―インド太平洋経済枠組み(IPEF)交渉開始が決まった。
インドだけが貿易分野の交渉参加を見送ったが、残る3分野に全14カ国が加わることは前向きな成果だ。各交渉目標には比較的緩やかな内容も含まれ、厳しい基準を避けたい東南アジア諸国連合(ASEAN)の意見を反映させた形だ。
―IPEFの求心力は維持できるか。 14カ国による交渉の進み具合、野心の高さやルールの定義を見極める必要がある。他の国が後から加入できる仕組み作りも重要だ。ただ、米国が関税を引き下げる市場開放は含まれず、環太平洋連携協定(TPP)など大型の自由貿易協定(FTA)には対抗できない。
―期待と不安は。
サプライチェーン(供給網)の危機管理メカニズムを構築して情報を共有することは大きな利点だ。一方、米国で8月に成立した新法に米国産の電気自動車(EV)優遇策が盛り込まれた。他国には不満もくすぶり、有志国との連携を目指すIPEFと折り合いをつけられるかが懸念材料だ。
―日本の役割は。
TPPや地域的な包括的経済連携(RCEP)を主導し、既に通商外交のリーダー的な存在だ。ルールに基づく国際経済秩序を維持する形でIPEFの交渉が行われることに、日本が果たすべき役割は非常に大きい。 ◇日本、デジタル貿易で指導力 ジェイク・コルビン全米外国貿易評議会会長
―インド太平洋経済枠組み(IPEF)への期待は。
経済界にとって最も商業的意義があるのはデジタル貿易ルールの形成だ。サプライチェーン(供給網)強化、強制労働の根絶への関心も高い。
―関税を引き下げる市場開放は含まれない。
日米は、国際貿易が新たなニーズや課題に対応できるよう支援するリーダーとなり得る。IPEF交渉入りは重要な前進だが、(関税撤廃などの)市場アクセスは雇用と成長を支えるために不可欠だ。
―グローバル化が終わりを迎えているとの見方もある。
ロシアのウクライナ侵攻で地政学的リスクや国家安全保障上の懸念が高まり、多国間の貿易自由化に向けた道は閉ざされつつある。ただ、冷戦時代のブロック経済のように白黒つけることはできない。世界貿易機関(WTO)などの国際機関は、国際貿易ルールを定める場としてより重要な役割を担う。
―日本の役割は。
日本はグローバルなデジタル貿易、電子商取引の分野で高水準のルールを追求している。質の高いルールの採用に向け、IPEF参加国が結束することを手助けできる。