欧州猛暑、エネルギー危機に拍車 物流停滞・電力低下

欧州の猛暑と干ばつが、ウクライナ危機で加速するエネルギー需給の逼迫に拍車をかけている。6月から40度を超える記録的な暑さが続くなか、ドイツではライン川の水位低下により火力発電用の石炭の水上輸送が滞り、フランスは原発の出力低下を余儀なくされた。自動車工場などの操業にも影響が及ぶ可能性があり、経済や日常生活への被害拡大も懸念される。

欧州メディアによると、今年は北極側から欧州に流れる空気の温度が例年より高く、サハラ砂漠側からの熱い空気の影響を強く受けて熱波をもたらしている。地球温暖化の影響で、近年はこうした状況が頻繁に発生しているとみられる。スペインでは6月に40度超の気温が観測されたほか、7月に入ってからはポルトガルやフランス、英国でも40度を超えた。

ドイツでは水不足が深刻だ。スイスを源流にドイツを経てオランダに流れるライン川では、フランクフルトの西側に位置するカウプで12日に水位が40センチメートルを下回った。貨物船の場合、通常は1.5メートル程度の水深だと安全に運航できる。水位は日ごとに低下しており、回復の見通しは立たない中で貨物船の運航が停滞している。

懸念されるのは、ロシアが供給を絞った天然ガスの代替電源として依存度が高まる石炭火力への影響だ。ライン川は石炭を運ぶ重要ルートだが、ロイター通信によると水位の低下で西部フランクフルト近くなどの2カ所の火力発電所への石炭輸送が滞り、9月まで発電量が減る可能性がある。

石炭輸送の重要ルートであるライン川の水位の低下など、ドイツでは猛暑の影響が深刻になっている=AP

仏電力公社(EDF)は国内の原子炉数基の出力を下げた。周辺の川の温度が熱波で上昇するなか、加熱された原発の冷却用水を流せば生態系に悪影響が出るおそれがあるためだ。仏当局は一時的に河川の上限温度の規制を緩めるなどして発電量の確保を急いでいる。

「水位の回復を優先する」。ノルウェー政府はこのほど、水力発電用ダムの水位が一定以下になった場合、近隣諸国への電力輸出を制限する方針を打ち出した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、南部の水力発電所の水量は49%で、平均の74%を大きく下回っている。イタリアやスペインでも水力発電の発電量が減っている。

不安定な電力供給は電力価格の上昇につながっている。米ブルームバーグ通信によると、ドイツの電力価格は一時、通常の約8倍に上がった。

猛暑の影響は製造業にも及ぶ。欧州自動車大手ステランティスの労働組合は7月、工場の労働環境が過酷になっているとして休憩時間を増やすよう求めた。国際労働機関(ILO)によると、気温が約33~34度になると生産効率は通常の半分になる。熱中症などの恐れも高まり、工場などの稼働率低下につながる。

国民生活にも影響が広がる。英水道会社のサウス・イースト・ウオーターによると、7月は1935年以降で最も雨が少なかった。同社はケント州やサセックス州を対象に、12日から庭の水やりや洗車のためのホースパイプの使用を禁止した。英BBCによると少なくとも100万人が影響を受け、守らなかった場合は1000ポンド(約16万円)の罰金を科される可能性がある。

「100以上の自治体で水道から水が出なくなっている」。フランスのベシュ環境相は、国民に節水を呼びかけた。水源が干ばつに見舞われ、住民は給水車に頼って生活用水をまかなっている。仏首相府は記録に残る限り最も深刻な干ばつだと説明する。

経済への悪影響は避けられない。過去に熱波が発生した年は欧州の域内総生産(GDP)が0.3~0.5%押し下げられたとの試算がある。今年は熱波の到来が早く、過去の例を上回る被害を懸念する声が出ている。

(パリ=白石透冴、ベルリン=南毅郎、ロンドン=佐竹実)

 

出典:日本経済新聞

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