【北京=川手伊織】中国の雇用改善がもたついている。2022年7月の失業率は5.4%と前年同月を上回り、若年層に限ると過去最高を更新した。新型コロナウイルスの感染が一部都市で再拡大したことで移動制限が強まり、内需の回復が遅れている。企業や家計は先行き不安を拭えず、年後半の景気復調というシナリオに狂いが生じかねない。
中国国家統計局が15日、7月の主要統計を発表した。前年同月と比べた増加率は工業生産が3.8%、小売売上高が2.7%だった。いずれも市場予想に反して、6月の伸びより縮まった。
これは新型コロナ対応の移動制限が一部都市で再び強まったためだ。外食や娯楽など接触型消費を下押しした。6月は1.3%だったサービス業生産指数の上昇率は0.6%にとどまった。南部を中心に7月は高温多雨が続き、経済活動が停滞したことも響いた。
雇用もさえない。失業率は5.4%と前月より0.1ポイント下がったが、21年7月より0.3ポイント高い。5カ月連続で前年同月の水準を上回る。なかでも16~24歳の失業率は19.9%に達し、4カ月連続で過去最高を更新した。6月に卒業した大学卒業生が労働市場に参入し、若年層の就職難は深刻さを増している。
先行き不安から企業や家計の資金需要は弱い。中国人民銀行(中央銀行)によると、中長期融資の純増額は7月、前年同月より45%少なかった。6月は上海市のロックダウン(都市封鎖)解除で21年5月以来の増加を記録したが、再び落ち込んだ。
中長期融資のなかでも住宅ローンが大半を占める個人向けは63%減った。7月の住宅販売面積は3割減少した。マンション市場の低迷で家具などの販売も伸び悩んでいる。
景気回復の足取りが重いなか、人民銀行は15日、市中銀行に1年間の資金を融通する中期貸出ファシリティ(MLF)の金利を引き下げた。人民銀行が事実上の政策金利と位置づける最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)はMLF金利に基づいて設定するとされる。金融市場では「人民銀行が景気下支えのため利下げに踏み切る」との観測が強まっている。
ただ利下げ効果は読めない。新型コロナの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策に基づく厳しい移動制限が企業や家計の潜在的な需要を圧迫するためだ。人民銀行は5月に住宅ローンの参考となる期間5年超のLPRを下げたが、住宅市場の調整は続いている。
中国南部のリゾート地、海南省の海南島では8月初旬、感染拡大をうけ地元政府が公共交通機関の一時停止などに踏み切った。このあおりで8万人の観光客が足止めを受けた。今なお多くが「脱出」できずにいる。
秋の共産党大会を控えて「感染封じ込めのための移動制限がまた厳しくなるのではないか」との声も多い。今春、ゼロコロナ政策で景気が悪化した記憶は新しく、移動制限の強化は家計や企業の心理を冷やし、内需の復調に水を差す恐れがある。
出典:日本経済新聞