倒産手続きと倒産法(6) 私的整理・特定調停のしくみと手続き

私的整理とは

私的整理は任意整理とも呼ばれ、全ての会社や個人を対象とした倒産処理方法です。法の適用を受けないので当者同士の話し合いで処理を進めていきます。

私的整理は、法的整理と比較した場合、次の3つの利点があります。

  1. コストを低額に抑えやすいこと:私的整理では裁判所が介在しないことから、予納金が不要なためです。
  2. 柔軟な対応が可能です:手続きが画一的な法的整理とくらべ、当事者の話し合いで、柔軟に対応できます。
  3. 会社の信用低下のリスクが少ない:法的整理で申立てを行うと、その事実が世間に知れ渡ってしまいますが、私的整理であれば抑えられます。

私的整理の手順について

弁護士が介在した会社の私的整理の手順は次のようになります。

  1. 弁済計画の立案:債権者に提示する事業計画や弁済計画を立案します。
  2. 受任通知の発送:私的整理を行う旨の受任通知を弁護士より債権者に送付します。
  3. 債権者との交渉:私的整理に至った経緯や、私的整理案を債権者に説明します。
    私的整理案は大口の債権者と協議の上作成します。債権者説明会を開催することもあります。
  4. 債権者からの同意書の提出:債権者全員から同意書の提出があれば、私的整理案は成立し、全員の同意が得られない場合は、特定調停や法的整理を検討しなければなりません。

債権集会の流れ(債権者委員会を結成した場合)

まず大事なことは、債権者集会の前に大口債権者から私的整理について、一定の合意を得ておくことが重要です。債権者集会では、次の手順で手続きが進みます。

  1. 倒産に近い状況に至っている実情や経緯を説明します。
  2. 財務内容を説明し、私的整理によって処理したい旨を伝えます。
  3. 会社の財産調査を行った上、私的整理の基本方針を作成します。
  4. 最後に債権者の同意を得て、会社との間で私的整理の基本方針に関する基本契約を締結します。基本契約には会社に対する債務免除や支払猶予に関する事項が盛り込まれます。


図:債権者集会の流れ

再建型の私的整理について

私的整理は会社の再建を目的とする「再建型」と、清算を目的とする「清算型」があり、どちらの目的でも利用できます。再建型の場合、再建計画を策定し実行していき、清算型の場合は、財産を換金して配当を実施していきます。

但し、再建型の場合、以下の条件を満たしていることが、条件となります。

  1. 私的整理後の事業黒字化の見通しがあること
  2. 私的整理後の負債総額が、弁済見通しが立つ範囲内に収まること
  3. 経営者に再建への意欲や資質があること
  4. 私的整理中の資金繰りが確保できること
  5. 債権者全員の同意が得られる見込みがあること

一方、裁判所の関与なしで手続きを進めるため、手続きの過程が、不明確になりやすいというデメリットがあります。

私的生理に関するガイドラインについて

「私的整理に関するガイドライン」とは、再建型の私的整理におけるルールを定めたもので、法的拘束力はなく、関係当事者が自発的に尊重することが期待されるものです。

ガイドラインによる私的整理が始まると,全債権者に「一時停止の通知」が発せられます。通常の営業過程以外で行う資産の処分や新債務の負担に加え、一部の債権者に対する弁済などが禁止されます。このようにして、現状を保存した状態で、再建計画を成立させます。

このガイドラインを利用できる債務企業は、多数の金融機関に対して債務を負担していることが大前提です。更に、

  1. 過剰債務などで経営困難となり自力再建が困難であること
  2. 事業に将来性があるなど再建可能性があること
  3. 法的整理を申し立てることで事業再建に支障が生じる恐れがあること
  4. 私的整理による方がより多くの債権者を満足させられること

等が条件となります。

また、再建計画に対するルールとして、債務者企業には、不採算部門の整理や人件費・管理費の大幅な削減などで、自ら企業体質を改善させる自助努力が要求されます。

中小企業再生支援競技会について

中小企業再生支援協議会は、中小企業が再生計画を作成するのを支援する形で再生計画を策定し、任意整理手続きを実施します。利用できるのは個人事業者を含む中小企業のみです。

手続に関するルールは「中小企業再生支援スキーム」と「中小企業再生支援協議会事業実施基本要項」があります。原則、公認会計士などの専門家による個別支援チームを編成し、再生計画案を作成します。協議を重ねた上で、全ての債権者が同意した再生計画が再生計画として成立した時点で、再生計画策定支援が終了します。

事業再生ADRについて

事業再生ADRは、事業再生に関する債権者と債務者の紛争を、公正・中立な立場の「手続実施者」が仲介することで解決する手続きです。

事業再生ADRを利用できるのは、事業に価値があり、債権者からの支援を受けることで事業再生の可能性のある企業に限られます。法人組織であれば、その規模や業種を問わずに利用することが可能です。

事業再生ADRは、企業の信用情報を扱うため秘密保持が必要不可欠で、JATP(事業再生実務家協会)では手続きを非公開として、外部への記録の開示を一切行っていません。このため事業再生ADRは、法的整理に近い中立性、公平性、信頼性を確保しています。

事業再生ADRは、専門家による事前審査に通らないと申し込みが出来ない仕組みで、審査料に一律50万円が必要です。また、事業再生計画を決議すまでに要する時間は約3か月です。

事業再生ADRが開始されると、私的整理ガイドラインと同じように「一時停止の通知」が債権者に発送され、債権者会議が開催されます。債権者全員から同意を得られると私的整理は成立します。全員の賛成を得られない場合は裁判所による「特定調停」に移行することがあります。特定調停でまとまらない場合は、民事再生や会社更生等の法的整理に移行します。

特定調停について

特定調停とは、裁判所に債権者と債務者が呼び出され、話し合いによって金銭債務に「関する紛争を解決する手段で、債務整理専門の民事調停といえます。現時点では返済原資がないような場合でも特定調停を申してすることはできます。

調停案が成立しなければ、調停は不成立として終了しますが、成立したとしても、債務者が返済できなければ、特定調停は結果的に不成立となります。

法人や個人事業主が特定調停を行う場合は、第三者機関である「調停委員会」の仲裁によって話し合いが行われ、「調停委員会」は弁護士・会計士などの専門家によって構成されます。

法人が行う特定調停の場合には、通常は事前に各種の財務諸表が精査され、かなり詳細なリストラ計画が検討され、銀行などの金融機関にも提出されます。金融機関の同意を得られるかどうかも重要なポイントです。

以下の図は特定調停の手続きの流れです。

図:特定調停手続きの流れ

以上

参照文献:「会社の倒産 しくみと続き」(森公任・森元みのり監修)三修社