【ソウル=細川幸太郎】ほぼ一本調子で上昇を続けてきた韓国の不動産価格が下落基調に転じている。KB国民銀行が28日発表した11月の不動産売買価格(全国平均)は前月比1.1%下落し、ピークの7月から2%超下げた。韓国銀行(中央銀行)の急速な利上げに伴い不動産市場にも逆風が強まる。
経済成長が続いてきた韓国では過去5年間でマンション価格がおよそ1.8倍に急騰した。前月比1.1%の下落は、アジア通貨危機後の1998年6月以来となる24年ぶりの下げ幅となった。7月をピークとして、8月の0.1%から9月0.2%、10月0.6%、11月1.1%と下落幅を広げている。
人口が集中するソウル市では前月比0.9%下落した。価格変動の大きいソウル市中心部の高価格帯マンション50カ所の平均売買価格は過去最大となる3.1%の下げ幅を記録した。政府機関の韓国不動産院の調査でも6月以降、価格下落が続いている。
市況の冷え込みをもたらしたのは、金利の上昇だ。韓国銀行は6会合連続で利上げを実施し、政策金利を年3.25%に引き上げた。2021年8月以降の利上げ幅は累計2.75ポイントにのぼる。結果的に9月末の平均貸出金利は4.79%と前年同月比で1.78ポイント上昇した。利子負担が重いために住宅ローンが組みにくく、持ち家を購入しようという意欲が後退しているとみられる。
ハナ金融経営研究所は「利上げ加速と値下がり予想で購入意欲が萎縮している。過去のような早期回復は難しく、価格下落が長期化する可能性がある」と分析する。
韓国では文在寅(ムン・ジェイン)前政権の5年間でマンション価格は全国で1.8倍、ソウル市では2.2倍に急騰した。新型コロナウイルス下の金融緩和で不動産市場に資金が流入し、ソウル市のマンション平均価格は1億円を突破した。一般市民の多くは価格高騰に不満を募らせ、22年3月の大統領選での政権交代の引き金にもなった。
急激な価格高騰に伴って家計負債も急増した。韓国銀行によると、21年末の家計負債額は1861兆ウォン(約190兆円)と16年末比で39%も増加した。
問題なのは8割超が変動金利による借り入れであることだ。不動産価格の継続的な値上がりを見越して収入に見合わない住宅ローンを組んだ世帯も少なくない。仮に5000万円の住宅ローンを変動金利で組んだ場合、現時点の利子負担は年240万円にのぼる。韓国銀行は通貨防衛のため利上げを進めざるをえず、家計部門の負債が消費全体に大きな影を落とすことになる。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は8月、規制緩和などで今後5年間で270万戸分の住宅を供給すると表明し、首都圏中心にマンション開発が進む。下落局面に入ったとみられる不動産市場は、政府主導の住宅供給拡大によって価格の下落に拍車がかかる可能性もある。
出典:日経新聞