反社会的勢力とは
近年、コンプライアンス意識の高まりにより、反社会的勢力への対応を強化する流れが加速しています。しかし、反社会的勢力として取引排除する対象先は法律上、明確に定義づけされているわけでなく、一般的には政府指針や組織犯罪対策要綱等により、定義されています。
具体的には2007年6月に政府により発表された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」として定められています。
ここでは細かく説明はいたしませんが、反社会的勢力として、次の属性に分類されています。
(1)暴力団、(2)暴力団関係企業、(3)総会屋、(4)特殊知能暴力集団等です。また、その他の「反社会的勢力」は(1)暴力団準構成員、(2)共生者、(3)密接交際者、(4)元暴力団、(5)準暴力団という分類になっています。
反社会的勢力と取引するリスク
反社会的勢力と取引を継続するリスクとしては、
- 法令リスクや契約違反リスク:
法令リスクは暴排条例違反等により、勧告や公表、防止命令、罰則等を受けるリスク。契約違反リスクは、契約書に暴排条項を導入している企業から契約違反として取引を解除されるリスクです。 - 金融機関との取引停止リスク:
金融機関から必要な融資を受けられずに資金繰りが行き詰り、最悪の場合には倒産に至るリスクです。 - 入札参加資格を失うリスク:
企業が入札停止により業績が悪化するリスクです。 - 監督官庁による処分を受けるリスク:
金融庁から金融機関が業務改善命令を受けて、業界内の信用が失墜、低下するなどのリスクです。
以上だけでなく、企業にとってマイナスの評価や評判が広がることによって、経営ダメージにつながるリスクとして、レピュテーションリスクもあります。
反社会的勢力に関する社会の動き
2007年の政府指針では次の5つの基本原則を挙げて、社会からの反社会的勢力を排除していくことが企業の社会的責任の観点から重要であると述べています。
具体的には
(1)組織としての対応
(2)外部専門機関との連携
(3)取引を含めた一切の関係遮断
(4)有事における民事と刑事の法的対応
(5)裏取引や資金提供の禁止
です。
政府指針を踏まえて、全国の都道府県においても一斉に暴力団排除条例が施行されました。東京都の例を取り上げてみると、
(1)契約時の暴力関係者の有無の確認
(2)契約書への暴力団排除条項の設置
(3)暴力団関係者への利益供与禁止
などが揚げられています。
反社会的勢力との関係遮断の実践方法
企業としては反社会的勢力とどのようにして、関係を遮断していけばいいのでしょうか。まず、平時の対応につき手順を見ていきたいと思います。
(1)事実確認、調査、データベース化
反社会的勢力との関係が顕在化した場合は先ず調査をする必要があります。
調査方法は、自社調査や業界団体等による公知情報の提供、公的団体による情報提供などがあります。
自社調査には、新聞記事データベースサービスや公知情報、調査会社等を活用した、いわゆる「反社チェック」があげられます。自社調査において重要なのは、調査結果を自社データベースの構築に活用することで、いかに効率的に調査を実施して、自社データベースに定期的に更新していくかが課題です。
公知情報としては日証協や全銀協、生保協会などの各業界団体の情報を利用すると良いでしょう。その他公的団体として警察や都道府県暴力追放運動推進センター(暴追センター)、警視庁管内特殊暴力防止対策連合会などがあります。
(2)リスクの洗い出しと評価
取引を継続した場合に自社に生じるリスクと、取引を遮断した場合に自社に生じるリスクを洗い出して、その重要性を評価する必要があります。上記2で述べた「反社会的勢力と取引するリスク」の項目をチェックする必要があります。
(3)対応方針の決定要項
基本的な対応方針については、各種のリスクを考慮したうえで決定することが必要であるため、基本的には取締役会等の重要機関で決定する必要があります。
(4)社内の意識改革
反社会的勢力との取引は、会社にとって大きなリスクであるということを会社全体の共通認識として持つことが重要です。その為には役職員に対して、定期的にリスクを認識させて自覚を促すための教育、研修等が必要でしょう。
(5)契約書への「暴排条項」の追加
契約書を確認して暴排条項の記載ない場合には、暴排条項を追記する必要があります。
(6)入り口での取引排除
反社会的勢力といったん取引を開始すると取引解除はハードルが高いですが、「契約自由の原則」により、理由のいかんを問わず契約を解除できるため、取引先の事前審査を行うことで取引の可否判断を行うことが重要です。
反社会的勢力との取引の遮断(有事の対応)
(1)外部との連携
反社会的勢力との取引遮断には弁護士や警察、暴追センター等との連携が中心となり、特に警察とは情報交換や保護対策の観点から連携が必須となります。
(2)取引解除の方法
有事の際に取引を遮断、排除する方法として合意解除と強制解除があります。
合意解除は、合意さえできれば解除事由は不要であり、将来の紛争防止にも役立つというメリットがある一方、強制解除は相手の合意は不要であり、交渉する必要がないため、基本的には強制解除を行うべきでしょうが、事業によっては合意解除を検討すことも必要でしょう。
強制解除を選択した場合、書面で解除通知を送付し、内容証明郵便と普通郵便の両方で行うことが望ましいでしょう。また事前に、対応窓口や対応方法を統一して、警察等の外部機関との連携を図りながら、弁護士を活用して対応することが必要です。
取引解除出来ず、やむを得ず取引を継続する場合には、検討過程の記録と保存を行い、説明責任に備える必要があります。取引継続に際しては、継続的に相手を監視し、取引の縮小を図っていくべきです。
以上
参照文献:リスクモンスター株式会社編「与信管理論」