取引信用保険が入金された時の会計処理について、事例に沿って説明します。
※便宜上貸倒引当金は考慮しないものとします。
取引先の資金繰りが悪化し、債権回収が本来期日に履行されず遅延となった場合に、取引信用保険に加入していると、保険金が支払われる場合があります。
さらに保険会社の保険取引形態によって、「債権譲渡」と「保険代位」があります。
今回は支払遅延があった場合(保険代位)の会計処理を説明します。
■前提
アルファ株式会社(以下A社)は、国内及び海外から仕入れた生鮮品を、国内及び海外の業者に対して販売する卸売商社である。近年海外の販路拡大に積極的に取り組み、既存得意先への販売強化だけではなく、今まで取引がなかった国に対しても展開している。
毎期増収増益と業績は好調である一方、与信管理にも力を入れ、売掛金に取引信用保険を掛けていた。
海外取引先B社に対する売掛金に11,000万円ついて、支払条件は当月末締、翌月20日払いとなっていて、支払遅延の場合は、債権額の80%が保険金として支払われる契約となっている。
■保険金支払事由発生・・・②支払い遅延(保険代位)
支払遅延が発生
B社から約定通りの期日に支払いすることが難しいので支払期限を延長してほしい。また債権元金について、本来期日以降に発生する利息を免除してほしい、などの連絡があった。B社の売掛金について貸し倒れを懸念して、取引信用保険の保険金請求の手続きをする。
通常債権から貸倒懸念債権として科目を振替する。
(貸倒懸念債権)11,000(売掛金)11,000
債券譲渡
B社の債権11,000万円(80%部分)を保険金請求の手続きをする。
取引信用保険入金
当初の契約通り、債権額の80%が入金された。
保険代位により、保険金入金額を限度として、A社が持つB社に対する債権は保険会社に移転する 。20%部分はA社の債権として保有したままとなる。
(現金預金)8,800(仮受金)8,800
B社から債権の一部入金
B社から債権の一部(50%)の入金があった。しかし債権譲渡のより本来の債務者は保険会社であるため、保険会社に同額を送金をする。
入金時:(現金預金)5,500(仮受金)5,500
送金時:(仮受金)5,500(現金預金)5,500
その後…
- B社は倒産せずに存続している
B社に対する貸倒懸念債権2,200は貸し倒れの処理をすることができないので、債権残残額はそのまま残る。 - 保険会社からB社が倒産したとの連絡があり、全ての手続きが終了
損失額が確定したので、貸し倒れの処理をする
(貸倒損失)2,200(貸倒懸念債権)2,200
■考察
保険金支払事由が支払遅延(保険代位)の場合、債権は、受け取った保険金額を限度に保険会社に移るため、債権譲渡と同様に保険対象額については貸倒損失の計上をすることがありません。
しかし、債権総額に対して、保険対象部分のみが保険会社に移転するため、保険対象外部分については、債務者が倒産しない限り、貸し倒れ処理をすることができません。
支払遅延の場合は、債権譲渡と保険代位によって手間とリスクが異なる一方で、保険を掛けない部分については貸し倒れ処理ができない点が共通です。
債権管理の観点からは、債権全額に対して保険を掛けておくことが良いと考えられます。
以上3回にわたって取引信用保険の保険金入金時の会計処理
・倒産、
・支払遅延(債権譲渡)
・支払遅延(保険代位) の説明をしてきました。
なお実際の取引信用保険の入金時には専門の税理士にご相談ください。