倒産手続きと倒産法について解説してまいりますが、原則的に対象を会社のみとし、個人は対象外とさせていただいております。
倒産手続きの分類
倒産手続きは再建型と清算型に分類できます。
再建型:会社の事業再建を図ることを目的とした手続きです。民事再生や会社更生が該当します。民事再生は会社も個人も対象ですが、会社更生は株式会社のみです。会社更生は原則現経営陣が退陣しますが、民事再生は裁判所の監督下、再生計画の成立・遂行を図る手続きで、原則として債務者が財産管理処分権を持ったまま手続きを行っていきます。
この他、倒産に至る前の段階で簡易裁判所が間に入り、談合によって解決を図る特定調停という手続きもあります。特定調停は厳密にいえば倒産手続きではありませんが、どのような法人,個人でも利用できます。
清算型:会社の財産によって債務を弁済することを目的とする手続きです。破産や特別清算が該当します。破産は会社も個人も対象となりますが、自らの意思で事業を終結させる通常清算は株式会社のみです。
破産は、支払不能や債務超過にある債務者について、裁判所から選任された破産管財人により会社に残った全ての財産を債権者に公平に配分しようとする手続きです。
債務者自身で申立てをする破産手続きが自己破産です。
解散後に清算手続きに入った株式会社について、清算手続きを遂行していくのに著しい支障を生じさせるような事情があるとき、又は債務超過の疑いがあるときは、特別清算という手続きに移行することがあります。
倒産手続きは管理型とDIP型という分類もできます。
管理型:債務者が会社の経営権を失い、第三者が会社の経営や財産の管理を行うという形態です。破産と会社更生が該当します。
DIP型:債務者が会社の経営を続ける中で会社の再生を図っていく手続きです。民事再生や特別清算が該当します。
法的整理:裁判所の関与を求め、法の規則に則った手続きをいいます。
私的整理:法的整理以外の手続きを私的整理といいます。任意整理ともいわれ、裁判所を通さない、あくまでも関係者の同意に基づく手続きです。再建型、清算型、どちらにも利用可能です。私的整理につて直接規定する法律はありません。
どちらを選択するか考慮すべきことは、取引先に対して優先的に弁済する必要があるかどうかという点です。法的整理では、全ての債権者に対して平等に弁済する必要があります。取引先が離れてしまう可能性がるのであれば、任意整理を選択することも考えなければなりません。また、任意整理を選択した場合、銀行などの大口債権者が同意してくれるかがポイントです。大口債権者の同意が得られなければ、任意整理は難しいです。
さらに、倒産した事実が公表されることで、事業に悪影響が出るかどうかも考慮する必要があります。法的整理は官報に公告されます。
図1:法的整理のしくみ取引先が
会社再建と清算の判断ポイント
会社を再建できる可能性があるのであれば、経営者としては再建を選択すべきという考え方があり、以下のチェック事項をクリアすることが再建型を選択するポイントと思われます。
倒産処理の手続申立の費用を用意できるか?
手続申立費用とは、裁判所に納める予納金と弁護士費用です。
3か月程度の運転資金確保でき、借入金額が売上高と同程度におさまっているか?
再建にあたっては、仕入れ代金や給与などを含め、当面の運転資金は会社が保有している財産から調達しなければなりません。
取引先が今後も取引を続けてくれるか?
取引先が今後も同様な取引関係を継続してくれるかは重要なポイントです。
事業に必要不可欠な設備に抵当権などを設定している債権者が担保権を実行しない
例えば工場、社屋、商品などに抵当権が設定されており、その抵当権が実行されると事業継続は不可能になります。
事業計画、弁済計画が立てられるか?
弁済計画が立てられなければ、弁済条件を提示できません。
債権者の同意が得られるか?
例えば、民事再生法により再生計画案を可決する為には、債権者集会に出席したものの過半数であって、議決権を行使することができる再生債権者の議決権総数の2分の1以上の賛成が必要です。
リストラ資金が調達できるか?
従業員への退職金だけでなく、例えば本社、工場などの売却を行う場合には、それに伴う本社、工場などの移転費用も必要となります。
以上、クリアが難しいようであれば、清算を考えるべきでしょう。
再建型で民事再生か会社更生かの判断ポイント
まず、会社更生は株式会社のみが利用できる手続きです。株式会社以外は民事再生を選択します。
担保権をどのように扱うか?
民事再生法を選択した場合、担保権は担保権者が原則として自由に実行できますが、会社更生を選択した場合、担保権の実行は禁止されます。
現経営陣が会社に残って事業を継続するかどうか?
会社更生の場合は、株式会社とは関係のない第三者が、その財産の管理と運営を行うのに対し、民事再生では、原則として現経営陣が残って、経営に携わることができます。
清算型で破産か特別清算かの判断ポイント
まず、特別清算は株式会社だけが選択できる手続きです。
特別清算を行うためには、株式会社を解散して清算手続きに入ることが必要です。株式会社を解散するには、株主総会での決議が必要であり、株主の理解を得られなければ、特別清算に入ることができません。
また特別清算をおこなう場合には、債務の減免などの処理方法について、債権者からの同意を得る必要があります。そのため、債権者の同意が得られなければ、破産を選択します。
ところで、破産においては、経営者が会社の財産を流出させる行為などを行っていた場合、破産管財人がその行為効果を否認する権限を持っています(否認権)。特別清算に否認権はありません。否認したい行為がある場合は否認権の制度がある破産を選択します。
図2:清算型と再建型
会社を継続させるための方法
会社を存続させる方法として「不採算部門の切り離し」があり、方法は2つあります。
事業の廃止
切り離した事業部門をそのまま廃止するものです。廃止する事業部門の従業員を解雇しなければならないといった痛みを伴います。
事業譲渡
切り離した事業を別の会社や個人(個人事業主)に売却するものです。しかし、自分たちが撤退したいと思っている事業の買手を探すのは容易ではありません。
第二会社方式による再建
収益性のある部門を第二会社に移転させる方法です。主に中小企業を対象とした事業再生手法です。
第二会社方式では、会社事業のうち、収益性のあるものを会社分割や事業譲渡により、他の会社(第二会社)に引き継ぎます。そして、不採算の事業(債務を含む)は旧会社に残し、旧会社を特別清算や破産によって消滅させることで債務整理を行います。
会社を消滅させ事業を残す方法
この方法は大きく2種類に分けることができます。
①会社が今まで以上に発展することが期待できるケースと、
②会社を終わらせることで、今までの借金などの負の資産をすべて清算して、新しく会社を立ち上げて再スタートするケースです。
いずれのケースも、基本的には会社は消滅しますが、事業は残ります。
①の代表例がM&Aです。吸収・買収してもらった方が事業の発展が期待できる場合です。後継者問題という判断要素もあります。他の企業に吸収・合併してもらうことで後継者問題を解決するという考え方です。
②は例えば、現在の事業の収益性は高いが、過去の負債が多額に上り、なかなか返済できないケースなどで見られます。このケースは思ったとおりに再スタートができるかどうかの見極めが重要です。事前にステークホルダーの意向を確認しておく必要があると思います。
以上
参照文献:「会社の倒産 しくみと続き」(森公任・森元みのり監修)三修社