米国の「株価下落ショック」はあと何回あるのか 個人投資家は日本株にもっと自信を持つべきだ

今、日本の株式市場は、まさに「今までに経験したことのない条件」の下に置かれている。つまり、国としてはデフレ脱却を図っているにもかかわらず、欧米はそれとは真逆のインフレ退治の金融引き締め策に邁進しており、その影響を全面的に受けているからだ。

アメリカの「金融引き締め終了」は2024年?

しかも、アメリカの引き締め策は2023年半ば、または後半まで続きそうで、「引き締め解除」(利下げ)になるのはおそらく2024年明けと見るのが、最近の市場コンセンサスになっている。

ではこの間、アメリカの株式市場はどのように推移するだろうか。市場は、上げるにしても下げるにしても、ときとして行きすぎた上げ下げを繰り返しながら、そのトレンドを作っていくものだ。とくに2022年に入ってから上げ下げが激しくなっているが、その主な理由は金融引き締めのスピードに対する「投資家の期待と不安」だ。

これらは、新型コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンの不具合や、ロシアによるウクライナ侵攻による天然ガスや原油などの高騰によって引き起こされた「イレギュラーな物価上昇」という一面が強い。

しかも、金融当局者の「初期対応のまずさ」と、その後の「性急な挽回策」(急激な引き締め)によって、株式市場は楽観的な上昇と失望による急落を繰り返し、それが今年の混乱を呼んでいるのは明らかだ。結局、9月13日には、6月に続いてまたしても「CPI(消費者物価指数)ショック」に見舞われた。いったい、こうしたショックはあと何回続くのだろうか。

今一度、2020年以降のNYダウを駆け足で振り返ってみよう。「わが世の春」ともいうべき「適温相場」で2020年2月に2万9551ドルの高値をつけていたNYダウは、3月の「新型コロナショック」で1万8591ドルまで急落した。

だが、共和党のトランプ政権終盤での約2兆ドルものコロナ対策費と、FRB(連邦準備制度理事会)の「2022年末までの長期金融緩和宣言」で、一気に反発へと転じた。2021年に民主党のバイデン政権に変わったあとも、1.9兆ドルの追加コロナ対策費が大きな追い風になった。NYダウはオミクロン変異株の影響を受けながらも、2022年の1月4日にはついに3万6799ドルの史上最高値をつけた。

悲観と楽観を繰り返してきた市場

しかし、その結果、物価は「手をつけられない状態」に過熱していった。しかも、2月24日に起きたロシアのウクライナ侵攻によって、資源高に拍車がかかったため、FRBは政策金利であるFF金利の誘導目標を3月、5月と連続で引き上げ、上限を1%とし、6月からは利上げだけではなく、QT(量的引き締め)も開始した。

その結果、6月8日時点で3万2910ドルだったNYダウは、3連続大陰線で3万0516ドルまで下がり、その後ついに3万ドルを割れた。これが最初のCPIショックといえるものだった。6月15日、実に27年7カ月ぶりとなった0.75%の利上げによって、市場はCPIの数字に極度に敏感な相場となった。

それでも、株式市場は根が楽観的だ。NYダウは8月16日に3万4152ドルまで戻したものの、次のショックは8月26日にやってきた。ジェローム・パウエルFRB議長のジャクソンホールでの講演を理由に、相場は再び神経質な相場となった。しかし、結局は直後に4連続陽線となったように、神経質な相場に楽観論が盛り返す展開が続いた。

そして、現在は9月13日の1276ドル安という「3度目の急落」に見舞われたことで、またまた楽観論は後退。下値を探っている状態だ。今回の下げも、市場の「CPIアレルギー」を強く感じる下げだった。13日に発表された8月CPIは前年比で+8.3%と、7月の+8.5%は下回った。だが、予想の+8.1%を上回っており、引き続き高水準となっていた。

日本株の強さも試されるとき

同時に、日本株の強さも試される。FOMCの結果を受けての22日の日本株は、そのあと23~25日に3連休を控える。午前はFOMCの結果を受けて始まり、午後は日本銀行の金融政策決定会合の結果が加わるという慌ただしさだ。

すでにECB(欧州中央銀行)が史上初めて0.75%の利上げに踏み切り、9月のFOMCも3度目の0.75%の利上げは確実だ。その中で、もし1.0%の利上げに踏み切ったなら、どうなるか。日銀の金融緩和政策は大枠としては変わらないまでも、引け後の黒田東彦総裁の記者会見は、いつものような会見になるのだろうか。やはり、今回の記者会見はかなり緊張感を持って見守るべきだ。

だからといって、日本株がアメリカ株に付き合う必要はないと考える。冒頭でも書いたように、物価高退治の引き締め策に四苦八苦する欧米と違い、日本はデフレ脱却政策という真逆の政策をとっており、一部のイレギュラーな価格上昇を除けは、本格的なインフレにはなおほど遠い。

しかも、企業業績は総じて順調で、今までため込んだ内部留保を、自己株消却や増配で株主に還元しようとしている。9月の日経平均株価の配当落ち予想額は225円前後であり、これは記録的な数字だ。また、単年度の利益に対する配当(配当性向)よりはるかに安定する、自己資本配当率(DOE)を配当額の目安にする企業も増えている。

現在、東証プライム市場の加重平均配当利回りは約2.5%で、アメリカの市場上位3000社のそれは約2%だ。これだけをとっても日本企業の優位性がわかるが、10年債利回り0.25%の日本と約3.4%のアメリカの金利環境を考えると、さらに圧倒的に日本企業が割安だ。

しかも、岸田政権は資産所得倍増計画に沿って、つみたてNISA(少額投資非課税制度)などを拡充しようとしているように、日本の株式市場の方向性はまったく悪くない。日本の投資家はもっと日本株に自信を持つべきだ。

出典:平野健一/日経オンラインニュース /ka 2022年9月19日

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