「hi-fi」のオンキョーが経営破綻した3つの理由
この1 年、オンキヨーという会社をウォッチし続けてきた。日本のエレクトロニクス企業というと、パナソニック、東芝、ソニー、シャープなどを思い浮かべるが、40、50 代以上のhi-fi ブームを知っている世代にとって、この度のオンキヨーの破産申請は大きなショックとともに受け入れられたであろう。
オンキヨーはもともと、松下電器産業(現パナソニック)の音響エンジニアが独立して作った、オーディオ専業メーカーである。
昨年9 月にオンキヨーは主力のAV 事業を売却し、売却先のAV 事業の売り上げのライセンス料を収益化することを狙っていた。しかし、このスキームが上手く機能することはなく、収益のあてのないオンキヨーは破産の道を選んだ。創業が1946 年であるから、創業80 年を目前にしての消滅であった。
筆者は2020 年秋と2021 年秋に、通信社やテレビ局からオンキヨーの経営についてコメントを求められた。2020 年の段階ではまだオンキヨーは生き残る術はあったかもしれないし、当時そう答えていた。ただし、大規模なリストラは必要であった。
筆者は、日本の現場を守るためなら経営トップが外国人になっても構わないという考えを本連載でも述べてきたので、リストラ、特にエンジニアの集団をそぎ落とすことについては、最後の最後までやるべきではないと考えている。しかし、オンキヨー破綻の原因は大きく3 つあり、その中でも中途半端な規模感というのが最も問題であったと言える。
パイオニアAV部門買収が岐路に 規模拡大の誘惑に潜むリスク
その1 つ目の要因とは、パイオニアのAV 機器部門の買収による中途半端な規模の拡大である。ソニーやパナソニックといった企業は、まず多くの製品カテゴリーがあり、また組織が十分に大きくコスト競争力もあり、ブランドの知名度も高いので、多品種大量販売をしても何とかなるメーカーである。一方オンキヨーは、一部オンキヨーマニアによって支えられてきた企業であり、知る人ぞ知る高機能・高性能・高級AV 機器を少品種少量販売すべきであった。
しかし、パイオニアのAV 機器部門を吸収したことで、開発部門の人員という固定費は膨らみ、既存のオンキヨーの製品ラインアップだけでは、到底コストが賄い切れなかった。そのため、事業計画の数字上の辻褄を合わせるために、組織の体力に見合わない大量モデルの投入とそれらが売れることを前提とした、収益化プランを作ってしまった。
実際には、オンキヨーにはそれだけの多くのラインアップを販売店に押し込む力はなく、そもそも店頭に展示されない機種が多数存在していた。
家電の世界は、店頭展示シェアがほぼイコール実販シェアである。店頭に並んでいない商品をカタログから取り寄せ注文する顧客は極めてレアであり、SKU(店頭に並ぶ定番商品)を取れない限り、むやみにモデル数を増やしても売り上げが伸びることはない。
むしろオンキヨーの場合、同社のムダに多いラインアップ同士が競合を起こし、同じメーカーの製品内で共食いのような競合状態になっていた。これは、必ずしもオンキヨーのせいではないが、コロナ禍の輸送力低下、半導体不足により、そもそもカタログに載っている商品の生産すらできないという状況も経営を苦しめていた。
歴史に「たられば」はないというが、オンキヨーが無理をしてパイオニアのAV 機器部門を吸収せず、身の丈に合ったオーディオ専業メーカーとしてやっていれば、その後の状況は違っていたかもしれない。
オーディオ不況が敗因ではない? ブランドイメージの重要性
2 つめの要因は、何がオンキヨーを代表するシグニチャー商品なのかがわからないことだ。hi-fi ブームが去り、オーディオ不況とも呼ばれて久しいが、それでも生き残っていて元気のあるオーディオ専業メーカーは、世界を見渡せばいくつもある。
かつてのデンオン、現在のデノンもそうした国内オーディオ専業メーカーである。他にもサウンドバーやミキサーで有名なヤマハのオーディオ部門、米国にはスピーカーのBOSE、欧州ではハイエンドデザインAV 機器のB&O なども健在である。オーディオ不況がオンキヨーの敗因というわけではなさそうだ。
では、何がもうひとつの原因なのか。それは、今述べたメーカーの枕詞にある。BOSEならスピーカー、B&O ならデザイン家電のように、各社は自社の製品の特徴と製品ラインアップを絞って、「このブランドと言えばこれ」「これといえばこのブランド」というイメージを作ってきた。アップルですら、スマートフォン、PC、イヤホンから大きくラインアップを広げようとしていない。
一方のオンキヨーはどうか。デノンのような単品コンポのピュアオーディオだけではなく、ソニー同様のポータブルオーディオを出してみたり、ワイヤレスイヤホンや、パイオニアブランドではあるがシーリングランプまで手がけたりしていた。
「良いものをつくれば売れる」という固定観念の危うさ
バブル期と言わないまでも1990 年代までは、中堅メーカーが良いものをつくれば、ラインアップを広げていったり、製品の数を増やしたりしても、何とかやっていけたかもしれない。それは、かつてNEBA 店と呼ばれた地域量販店が、歩合制の店員を店内に配置し、一生懸命商品説明をして、少しでも高いものを売ろうとしていた時代であったからである。
2000 年代に入ると、YKK(ヤマダ、コジマ、ケーズ)という全国チェーンが台頭し、ほとんど売り場に説明員がいない状況が生まれ、良いものを作っても顧客に良さが伝わりにくくなった。さらにE コマースの広がりや、Amazon による家電取り扱いの開始によって、さらに細かな説明をしないと良さが伝わらない商品は売れない状況に陥った。むしろ
最近のヤマダ電機の方が、丁寧に商品説明をしてくれている。
このような状況では、店頭での商品力の訴求を期待するのは難しく、ネットでパッと見て良さがわかるかブランドが認知されるような、一点豪華主義にシフトした方が良い。それがオンキヨーにはできなかった。
優れた現場があってもそれだけで製品は売れない
最後に3 つ目の敗因。これは毎度の話であるが、オンキヨーに戦略がなかったことだ。良いものを作ればいつか消費者はわかってくれる 。このような「待ち」の姿勢では、いくら優れた現場があっても、それだけで製品が売れるわけではない。
最近アップルはiPod の販売終了を発表したが、いまだにソニーはウォークマンのビジ
ネスを世界中で展開している。30 万円以上もするような高級モデルもラインアップされている。ソニーのウォークマンの販売戦略は、ひとことでいえば松竹梅の竹をなくして「超松」と「超梅」の2 本柱にしたことだ。
「超梅」は1 万円前後の商品。これは、スマートフォンを持てない小中学生が外で音楽を聴くためのエントリーモデルである。一方「超松」モデルは大人のウォークマンである。hi-fi 世代がハイレゾ音源を趣味として楽しむような顧客に向けて、数は少ないが確実に利益を取れるモデルを出している。
つまり、超梅モデルで、規模の経済性を生み出すことで固定費を稼ぎ、「ハイレゾと言えばウォークマン」という高級オーディオブランドにウォークマンをスイッチさせるための超ハイエンドモデルを、持続的に開発するための土台にしていると言える。それによって、「ソニーのオーディオといえばウォークマン」「ウォークマンと言えば高いけれど超
高音質のハイレゾ音楽が楽しめる商品」という、ブランド浸透を図っているのである。
それに対してオンキヨーは、個々の製品をしっかり見るといずれも良い商品ばかりだった。しかし世の中には、しっかり紙のカタログを読み込んでくれたり、店頭で販売員に相談したりするお客さんがいなくなった。この販売の現場の変化に対応できなかったことも、オンキヨーという企業に寿命をもたらした要因だと言える。
(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)
以上
出典:ダイヤモンドオンライン